第17章 戦場
戦勝の宴は盛大に行われ、夜遅くまで家臣たちの歌い、騒ぐ声が城内に溢れていた。
信長も上座で脇息にもたれながら、家臣たちからの祝いの盃を次々と空けて終始上機嫌だった。
信長の隣には、いつもよりも煌びやかな、黒地に金糸銀糸で蝶をあしらった豪華な打掛を纏い、久しぶりに晴れやかな笑顔を見せる朱里の姿があった。
普段はしない少し濃いめの化粧が、実際の年齢以上に大人びた妖艶さを醸し出しており、宴の始まりから家臣たちの熱い視線を集めていた。
「今宵の朱里様はまた一段と美しいなっ。まるで天女のようだ」
「あの艶めかしいご様子、唆られるのぅ」
当の本人は家臣たちの不躾な視線にも気付かず、ニコニコと笑顔で皆に話しかけている。
信長も最初は今宵の朱里の美しさに満足し、家臣たちの下世話な会話も余裕で聞き流していたのだが……だんだんとモヤモヤとした心持ちになってきた。
(くっ、何だこの苛々する心地は。訳がわからん…)
「朱里っ!」
荒々しく朱里の腕を引き、噛みつくように口づける。
朱里の目が驚きで大きく見開かれていたが、気にせず深く唇を奪う。
家臣たちのざわめきが遠くに聞こえる。
「っ、の、信長さま??急に何を??」
「……なんでもない」
「????」
(なんでもないって…なに??)
目を白黒させて戸惑っている朱里の横で、光秀が腹を押さえて懸命に笑いを堪えているのが目に入る。
「……光秀、貴様、斬られたいのか?」
「くくっ、ご勘弁を。
戦場では鬼神と恐れられる御館様を振り回すとは、朱里はやはり大した女ですな」