第16章 出陣
留守居役の秀吉さんと三成くんたちと一緒に城門まで見送りに出ると、城門前はすでに多くの兵でごった返していた。
「…秀吉さん、信長様は?」
「まもなく出てこられるよ…朱里、笑顔でお見送りしような」
(そうだ、泣いちゃだめ。信長様が心置きなく戦えるように、笑顔で見送らなくちゃ)
その時、黒馬に跨った信長様が、漆黒の甲冑に身を包んで風のように軍列の先頭に躍り出る。
甲冑と同じ黒色の陣羽織の背には、煌びやかな金糸で揚羽蝶の刺繍が施してあり、まるで本物の蝶が舞い降りたかのようだった。
信長様の姿が見えただけで、兵達の喧騒が一瞬で鎮まり、皆が信長様を畏敬の眼差しで見つめている。
近寄りがたい雰囲気を感じて、遠目から様子を見守っていると、政宗と家康に指示をしていた信長様と目が合う。
「朱里、来いっ!」
「っ、はいっ!」
気付いてくださったことが嬉しくて、着物の裾が乱れるのも気にせずに信長様の元へ走り寄る。
…と、いきなり馬上へ引き上げられて、ぎゅっと抱き締められる。
「のっ、信長さま??」
(兵達が皆見てるのに、どうしよう??)
「ふっ、今更何を恥ずかしがることがある?
皆、貴様が俺の気に入りだと知っておる」
「そっ、そうですけど…」
「……行ってくる。必ず戻る。だから笑顔で待っておれ」
真剣な表情で真摯に告げられる言葉に、目頭が熱くなってくるけれど、泣くのをぐっと我慢して精一杯の笑顔を見せる。
「…ご武運をっ。ご無事のお戻りをお待ちしております!」