第3章 本当の気持ち
信長様が傘下の国で起きた大規模な一揆の鎮圧のために出陣し、既に10日が経とうとしていた。
「秀吉さん、信長様たち、大丈夫でしょうか?」
安土の留守を任された秀吉さんは、私を心配してほぼ毎日様子を見に来てくれていた。
「一揆は鎮圧したが、戦後処理に手間取ってるようだ。今朝届いた知らせでは、2〜3日のうちには安土に帰還されるだろう」
(良かった!無事に戦が終わって…早く信長様のご無事なお姿が見たい)
「良かったな、朱里。もうすぐ御館様に逢えるぞ」
「えっ、私は別に…」
「早く逢いたい、って顔に書いてあるぞ」
秀吉さんに揶揄われて、恥ずかしさから思わず顔を伏せる。
思い出すのは、あの天主での夜のこと。
信長様に戯れに触れられた感触が、いつまでも頭から離れず、夜毎身体が熱く火照る。
もっと触れて欲しい…でも信長様の心が分からない。
自分の気持ちも分からない…信長様のことが頭から離れない、この気持ちはなんなんだろう。
数日後〜
「朱里、御館様が戻られたぞ!」
秀吉さんの声を聞いて、居てもたっても居られず、気が付けば私は城門に向かって駆け出していた。
着物の裾が乱れるのも気にならず、早く早くと気持ちが焦る。
城門には、既に家臣たちに囲まれた、漆黒の甲冑を見に纏った信長様の姿が。
「信長様!お帰りなさいませ。ご無事で…って、お怪我をっ?」
見ると信長様の腕には白布が巻かれ、薄ら血が滲んでるのが分かる
サッと血の気が失せて、気持ちが乱れる。
「大事ない、かすり傷だ」
「で、でも血がそのように…」
震える私へ、信長様は怪我をしていない方の手をそっと伸ばし、頬に触れようとする。
「信長様、すぐに手当てを。俺がみます」
いつの間にか隣に来ていた家康が、少し焦った様子で告げる。
その声に我にかえったように、伸ばされかけた手が止まる。
「ああ、頼む。朱里、後でな。夜は天主に来い」
「はっ、はい」
そう短く告げると、信長様は家康と共に城内に入っていった。