第83章 心とカラダ
上手く三人を説得して、結局、朝餉と戦術書は俺と家康で持って行くことになり………
(光秀だけは、最後まで意味深な目で俺を見ていたが…あいつの勘の鋭さは人並外れてるからな)
「助かったぞ、家康。まったく…どうなることかと思ったが…」
天主へ続く階段を上がりながら、先を行く家康に礼を言うと、
「別に…今回の件は俺の失態ですから……信長様の不利益になるような事態は、俺の望むところではないです」
ボソッと小さな声で呟くように言うあたり、家康も御館様のこの緊急事態に対して、相当責任を感じているのかもしれなかった。
「なぁ…今日一日乗り切れば、明日には元通り、男のカラダに戻れるんだよな?」
「………多分」
(くっ…本当に大丈夫なんだろうな……御館様に万一のことがあったら俺はっ……)
(忍びの秘薬など飲んで、本当にお身体に害は残らぬのだろうか……元に戻られても、アレの機能が不能になどなっていたら、織田家の一大事だぞ…)
御館様ご本人は、急に女のカラダになったというのに随分と落ち着いておられるし、女装もかなり愉しそうだったから何となく緊迫感に欠けるのだが……こんな事態は本当に一大事なのだ。
御館様のあまりのお美しさに、つい我を忘れて、浮ついた気持ちになってしまっていたが、天下人たる御館様が女の姿になるなど、本来あってはならないことだからだ。
天下人としての御館様の威厳をお守りするためにも、城の内外の者にも絶対に知られてはならない。
御館様をお守りできるのは、俺だけなのだ。
今日一日、何があってもこの秘密は守ってみせる。
御館様は、俺の唯一無二の大事な御方なのだから………
「御館様、秀吉です。入ります………」
大変な一日の始まりに、信長の美しい顔を思い浮かべながら、秀吉は今一度気合いを入れ直したのだった。