第15章 発熱
吹く風が少し冷たくなり、庭の紅葉が色づき始めた頃、私は自室で文を書いていた。
文の宛先は小田原にいる母上様。
母上はあまり身体が丈夫ではなく、季節の変わり目などに体調を崩して床に付いてしまわれることも多かった。
安土に来て半年が過ぎていたが、母上とは時折文の遣り取りをするぐらいで、小田原を出てから一度も会えずにいた。
(母上様……お元気であろうか。
また体調を崩しておられねばよいが……)
あの日
信長様が私を安土に連れて行くと言われた時、母上は涙ながらに信長様に嘆願なされた。
「織田様っ、どうかお考え直し下さいっ。
朱里はまだ子供で世間知らずな娘でございます。
織田様のお側にお仕えするなど……無理でございますっ。
どうか、どうかお許し下さいませっ」
信長様は行儀見習いのために私を連れて行くと仰ったけど、北条の家の者は皆、私は和睦のための人質として安土に連れて行かれるのだという認識だった。
私も安土に来た当初は、信長様の気持ちが分からなくて不安でいっぱいだった。
丁重に扱われれば扱われるほど、自分はやっぱり人質なのかな、と落ち込んだり……。
信長様と恋仲になって、秀吉さんたち安土の武将達とも打ち解けられた今、私は幸せだと、母上様への文に綴る。
(いつかまた母上に逢える日が来るだろうか…)