第82章 誘惑
「はぁ……」
夜も更けていた為、簡単に身体を清めて床についたが、眠れない。
今日は一日中、要らぬ気を使い、心も身体も疲れているはずだったが、横になっても一向に眠気が起きないのだ。
褥に横たえた身体は、鉛のように重い。
御所での時間は、自分で思っている以上に、この身に負担になっていたようだ。
元々、寝つきが悪く、眠りも浅い性質ではあったが、朱里と閨を共にするようになってからは、それまでの生活が嘘のように、よく眠れるようになっていた。
それは、身体を交えぬ夜も同様で、隣でただ一緒に眠るだけでも、不思議と深い眠りを得られた。
人肌が恋しいわけではない。
朱里でなければダメなのだ。
他の女を抱いたところで、一時の快楽は得られたとしても、安らぎまでは得られない。
何故なのか…自分でもよく分からないが、この身は朱里を欲して止まない。
朱里でなければ、俺は満たされないのだ。
「くっ…はぁ……」
寝返りを打ち、身動ぐと、真新しい白絹の夜着が肌を擦る。
それが思いの外、心地良く感じてしまい、思わず吐息が零れ落ちていた。
「っ……朱里っ…」
悩ましい吐息と共に、愛しい女の名を呼んでしまえば、途端に恋しくなる。
その美しい顔を
その艶やかな声を
その豊満な裸体を
頭の中で想像してしまえば、途端に身体の芯が疼き出す。
欲しい 欲しい と
タガが外れたように、身も心も暴走し始める。
知らず知らずの内に、鼓動が速くなり、全身が火照ったように熱くなっていた。
熱に浮かされたように頭がぼぅっとなり、息苦しさを感じた俺は、夜着の襟元に手をかけて緩めると、大きく左右に開いた。
梅雨時の夜は、湿気を帯びてじっとりと蒸し暑く、肌を外気に晒しても、さほどの爽快感は得られない。
だが……指先が、火照った身体に触れた瞬間、ビリビリっと全身を貫くような心地好い疼きが走り、下半身にググッと熱が集中した。
無意識に薄く開いた口からは、抑えきれない淫らな喘ぎが漏れ出てしまっていた。
「くっ…うっ…はあぁっ……」