第2章 濃縹色に染まる【聖川真斗】
「聖川、さん……」
「どうした?」
聞こえていないだろう、と小さく声に出したのに、間髪を容れずに返された彼の声に、咄嗟に取り繕うこともできず、言葉を詰まらせる。
「先程から、こちらをずっと見ていただろう。何かあったのか」
視線はずっと、手元の書籍に向けられていたようだったのに。私の様子を的確に認識し、気がつけば視線を上げ、こちらを見ていたなんて。
深い青色の瞳と視線が交わり、どきりと胸が音を立てる。心拍数が、上がっていく。
「何かあるならば、俺に言え。俺とお前の間に、遠慮などいらない」
「っ」
ふっと微笑んだ彼の目元に、声に、自然と顔に熱が集まり、慌てて視線を下げた。下げたところで、何かが変わることはないのだけれど。
「……もっと、近くに」
「え?」
「もっと、聖川さんに近づきたいなって、思って。必ず、聖川さんの声を乗せるに相応しい、音を作ります」
「改まって何かと思えば」
たった一言。それでも、こんなにも心がざわつく。苦笑にも似た彼の微笑みに、次に続く言葉に、ほんの少しだけ、期待をして。
「俺も、お前の音に恥じぬよう、歌ってみせる。香澄、俺はずっと、お前を信じている。詰まらないことで悩む必要はない」
「聖川、さん……」
「よろしく頼む」
「……はい」
揺れる想いは濃縹。深い青は、真白な布地に染み渡り、やがて美しい群青へとその色を変えていく。
彼の色が、この心に広がるならば、それは美しい海のような煌めきとなって。
心に蔓延るわだかまりから、じんわりとひろがっていく、信頼というあたたかな気持ちへ。気持ちは音に乗せて、伝えよう。大切なあなたに。