第7章 Nostalgic Noise
____違う。
その言葉だけが胸の底で繰り返される。
藍染惣右介が死ぬ時は、自分の刃が届いた時でなければならない。
幾つもの道をねじ曲げたあの男を、誰か知らない者の手で終わらせていいはずがない。
角を曲がるたび、騒ぎは濃くなっていった。ざわめきが壁に反響する。誰かのすすり泣く声。命令を飛ばす声。草履が石畳を叩く乾いた音。空気は乾いているのに、喉の奥だけが水を含んだように重い。
やがて五番隊隊舎の一角が見えた。人だかりの向こうの白い壁には黒い影が突き立っていた。
綴は足を止めた。息が、できなかった。
見たくない。けれど見なければならない。信じるためではなく、否定するために。
綴はゆっくりと人垣へ近づいた。誰にも触れないように、誰の記憶にも残らないように、一般隊士の背に紛れる。周囲の隊士達は動揺しきっており、布で顔を隠した見慣れぬ隊士一人に注意を払う余裕などない。
一歩。また一歩。
視界の隙間から、死覇装の黒が見えた。
壁に縫い留められた身体。静かに垂れた腕。胸元から広がる血の色。そして、眼鏡の奥で閉じられた瞼。
「……」
声が出なかった。
藍染惣右介が、そこにいた。確かに、そこにいた。
けれど綴の身体は、理解を拒んだ。
血の匂いがしない。
いや、血はある。周囲の隊士達が嗅ぎ取っているであろう生臭さも、湿った鉄の匂いも、風に混じって届いている。
それでも。
これは違う、と身体が言っていた。
あの男の霊圧は、もっと深い。穏やかな水面に見えて、その下に底のない暗がりを抱えているような、触れた瞬間に足首を掴まれる気配があった。目の前の死体には、それがない。
あまりにも静かだった。静かすぎた。
綴は布の下で、震える息を吐いた。
死んでいない。
そう思った瞬間、膝から力が抜けそうになった。
安堵ではなかった。終わっていなかったことへの、ひどく歪んだ安堵。そして同時に、背筋を氷の指で撫でられるような恐怖。
藍染惣右介は、生きている。