第5章 Walk In The Dark
何とも言い難い表情をしている一護の顔を見て井上は思わず声を漏らす。
「いいなぁ」
「え?」
「そんなに家族に心配して貰える事っていいなぁと思って」
その言葉に井上とその兄の事件を一護は思い出して返事の内容を迷っているうちに井上が言葉を続けた。
「黒崎さんの事、とても大切なんだね」
「そうだな」
その言葉に返事をするのに時間はかからなかった。
「井上は綴が養子に来たって知ってるよな?」
「……あ、うん」
一護や綴本人から聞いた訳ではなく有沢から聞いた話だったので少し気まずくはあったが井上は相槌を打つ。
「丁度おふくろが死んでさ……。おふくろ中心に回ってた家だったから俺達は途端に静かになってた。……その少し後に来たのが綴だ」
黒崎家の誰も彼もその時は死んでいた。あの一心でさえもいつもの元気は全くなかった。何もかも死んで誰も前に動き出せずに時間が止まっていた時に綴は来たのだった。
「あいつも急にこの家に来て大変だっただろうに嫌な事一つ言わずにずっと俺達が立ち直るまで待ってくれたんだ」
周りは見て見ぬふりをするか可哀想にと腫れ物を触るように一護達に接してきた。
そんな中、やって来た綴は一護達に''いつも''をくれたのだった。
''いつも''通りに起きて、''いつも''通りに美味しいご飯を食べて、''いつも''通りに授業を受けて、''いつも''通りに帰ってきて、''いつも''通りに過ごして、''いつも''通りに寝て。
そんな毎日を続けて行く事で何とか黒崎家は日常に戻ってこられた。
過剰に触れることなく、それでいてきちんと仏壇の世話や一心の作った真咲の神棚の飾り付けなど避けることも無く母、真咲を生活の一部に、心の中に落とし込んでくれた。
「……そっか」
何かを思い出しているのであろう優しい目をした一護に自分には入ることの出来ない何かがあるのを感じ取って井上はこれ以上聞くのを止めた。
「帰ってきてまた黒崎さんに会おうね」
「ああ……」
ルキア救出を胸に誓って2人は皆の輪に戻って行った。