第5章 Walk In The Dark
「綴、行くぞ」
「あ、うん」
「じゃあね」とその場に残っているメンツに手を振り一護の背中を追いかける。一護から声を掛けてきた割にいつもより足早で、それは一護が一人で歩く時のペースだった。何か別な考え事をしているのであろう。
綴は視界の邪魔にならないように半歩後ろを歩く。分かりやすい一護の事であるからきっと普段より眉をひそめ難しげな顔をしている。顔が見えないのに想像できた一護の顔にクスリと笑った。
「何悩んでるの?」
「……ちょっとな。ダチのことで……」
一護が悩んでいる理由なんて分かりきっているのに知らないふりをして綴は聞いた。言い淀む理由など分かっているのに。
朽木ルキアが目の前から消えたからだ。
朽木ルキアが現世にいた痕跡全てが消えたからだ。
助けたいと思う感情が自分のエゴではないかと悩んでいる一護。助けに行ってもらわなければならないと自分達の思惑を押し付けた綴に助言する権利なんて微塵もない。
それでも……。
「いくら相手の事を考えたって、相手の考えてることはその人にしか分からないから。直接会って聞いて、それからどうするか決めるのがいいと思う」
「……そう、かな」
「そうじゃないと。……きっと、後悔する」
青々とした明るい空の下。付随して暑い夏の日差し、気温。見上げて綴は呟く。
一護はその姿に暗い影が差したのが見えた気がした。それに踏み込んでいいのか逡巡していると、綴が何かに気づいた様子で手を振り出す。その頃にはもう暗い影の痕跡など一切無かった。
「……井上?」
「黒崎くん。……と、黒崎さん」
5mほど先に自分達より少し早く帰ったはずの織姫が立っていた。
「私、先帰っとくね」
「お、おい!綴っ!!」
「女の子待たせちゃダメだよ。早く行って」
綴は一護の背中を強めに突き飛ばし、右へ曲がる道に入った。
「終業式で早く家に帰れるから、ついでに夕飯の買い物して帰ろっと」
まだこちらを見る一護に聞こえるように声を出して、振り返らずにそそくさと次の角を曲がる。
「何か買うものあったかな……」
意図せず漏れた綴の小さな声はダレる暑さとお互いの存在を主張する蝉の声にかき消された。