第4章 The Straight Road
高校からの帰り道。ポタ、ポタと頭に何かが落ちてくる気配がして綴は顔を上げた。
「……降ってきちゃったか」
いつもは夕飯を作るため終業後は一護と共にそのまま自宅に帰るのだが、今日は夕飯を用意する必要が無いためいつもは使うことの無いスーパーで買い物をしていた。
「はあ……」
まさか降るとは思っておらず綴は傘を持っていなかった。身一つであれば問題ないのだが、右手にある買い物袋を目にすると流石に傘無しでは帰れないと悟る。仕方ないと寄り道をすることを決め、本降りになる前にと駆け足で向かった。
「ごめんください」
「あら?しばらくぶりですねン♡ 綴サン、どうされました?」
雨でがたつく年季の入った木造の建物。立て付けの悪い戸を開ければそこにはにこやかに笑う店主が座っていた。「今日はもう店じまいですよン」という彼に「何時なら開いてるのよ」と嫌味を返せば、耳を塞ぎ聞こえないふりをしたので綴は大きく息をついた。
「傘借りたくて」
「500円っスけど」
「お金取るの……」
「アコギな商売ね」と綴が眉をひそめれば浦原は何故か嬉しそうに笑う。仕方ないと学生鞄の底からゴツゴツとした機械を渡せば、浦原は驚いた顔をした。
「まだこんなに持ってたんスねぇ……」
「全く使ってないもの」
「こんなにあるならせびっても良かったか」
「ちょっと」
聞き捨てならないセリフに綴がツッコめば、浦原から「冗談ですよ」と機械をそっくりそのまま返された。
「傘くらいどうぞ何本でも持ってってください。というか、送りましょうか?」
「大丈夫」
奥から出てきた握菱の持つ傘を受け取ると表へ出る。いつの間にか目に見えるほどに降っている雨に向けて傘を広げた。人に貸すにしては立派な和傘に綴は苦笑いを浮かべた。
「それ、返しに来てくださいね」
「はいはい」
学生鞄に買い物袋、そして傘を持ち両手の塞がった綴は「じゃあね」と告げたまま、後ろを雨の中を歩き出した。