第4章 The Straight Road
6月16日晴れ。
いつもより静かな一心、いつもより遅起きな夏梨、いつもより甘えたがり遊子、いつもよりよく笑う一護。
普段と違う黒崎家の中で、普通を気取る。無関係だと言わんばかりに。それが最低限の贖罪。
「明日、何が食べたい?お弁当作るから食べたいもの言って!」
構ってほしそうにこちらを向く夏梨も傍をついてくる遊子も何か言いたげな一護からも綴は目を背ける。
あの日が雨だったのなら、明日はとびきりの快晴で。
綴はそれだけをただ祈ることしか出来ない。
6月17日晴れ。
「あれ、小島くん?一護今日休みなんだけど……」
「綴ちゃんは学校行くって聞いてたから」
全員から見送られながら外へ出ると、家の前で小島が立っているのが見えた。今日一護が休みである事を伝え忘れたのだろうかと声をかければ自分を待っていたのだと返ってきた。
「え、私?」
「他に誰がいるの。綴ちゃんとずっと話したいと思ってたから良い機会だと思って」
「もしかして一護に頼まれた?」と聞けば小島は曖昧に笑う。予想が的中だと相変わらず過保護な兄にため息をつけば慌てたように小島は話を続けた。
「でも綴ちゃんと話がしたかったのは本当だから!!」
「そう、ありがと」
2人はいつもより少し早足に歩き出した。流石歳上の女性によくモテるといったところか話題は尽きない。
「綴ちゃんは行かなくて良かったの?」
もうそろそろ高校に着くといった時に、ふと小島は言葉を投げかけてきた。
「私は皆と同じ思い出を共有出来ないから……」
「ふーん、そっか」
自分でもそれが完全な答えなのか怪しいと思っている言葉にも関わらず、深く問いただしたりしない小島に綴は驚く。
「……聞いたりしないの?」
「やだなぁ、僕そんな無神経な奴に見える?啓吾じゃあるまいし」
モテる片鱗が見えたと綴は舌を巻いた。そして小島の冗談にアハハと2人で笑ったところで丁度後ろから騒がしい声が聞こえてきた。気温が2℃くらい上がったのでは無いかと思うくらい元気な声が頭の中を反響し、2人は苦笑いをする。
「送ってくれてありがとう、先行くね」
見ればもう目の前に校門で、慌ただしくなる前に小島に別れを告げ綴は高校へ駆け込んだ。