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【APH】英国紳士との冬

第2章 人と国は違いますから、


器用な人だなと破顔しながら、彼の手に体重を預けてそっと彼を頭から爪先まで見る。いつもカチッと着こなしているスーツがおかしい、ボタンは掛け違えているし襟が立っている。慌てて来たのがありありと伺えるそれにより一層笑みを深くしながら直して、国でも人でもなくなったわたしの行方が不安だったと話す。
彼は少し眉をひそめて、俺も同じことを考えていたんだと、話の口火を切る。
「俺がお前の旦那にも、父親にも、弟にも、友達にだってなってやるよ。不安は全部取り除くから、だから、お前の気が済むまで、俺の気が済むまで、一緒にいよう。
....俺はお前以外じゃなきゃ嫌だからな、本当は気が済む“まで”なんてないけど。」
泣いたあとの頭は完全に働かず、何度もその言葉を噛む。消化不良の起こさぬように、私の身体の一部になるように。愛しいその言葉を大切に飲み込んで、答えを彼の手のひらに書く。イエスと書いたそこはもういつも通りの暖かさになっていて、幸せを覚えた。
彼は春のひだまりのような人だ。きっと周りからは冬の冷たい雨の降る日のような、そんなイメージを持たれているだろうがそんなことはない。
実際の彼は、何度も何度も振り返ってしまうような暖かさを持つ。もう二度と記憶の底から離れられないような、あの季節。
彼の手の上に自らの手を置き、彼の暖かさを感じていれば左手に違和感が走る。ゆっくりと視線をやれば、私の薬指にぴったりとはまる白い紙。
「それ、この前お前が気づかないうちにサイズを取ったんだ。
別に勢いでプロポーズしたわけじゃないんだからな!
今これをはめたのは前々から考えてたことが伝わるようにと思ったからで...!
___買いに行こうな、指輪。一緒に。それで、小さくてもいいから式を開こう。身内だけでいい。お前との愛を神の前で誓わせてくれよ。」
はにかんだような彼の顔は、あの困った笑顔よりも、寒い夜の照れ隠しを混ぜた顔よりも、断然綺麗だった。
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