第3章 たまにはいいかもしれません
わたしは日本人です。
素直に甘えられるような、そういう国の生まれではない。奥ゆかしさを大切に、露骨な表現は避けるべき、そういった教育のもと育てられた。今の感覚からするとちょっと古い考えかもしれないけれど、やっぱりお国柄はあるものだ。未だにその空気は、様々な国の色と混じり合いながらも健在している。
さて、何故このようなことを冒頭も冒頭、始まりも始まりに言い出したかというと、わたしは今、猛烈にイギリスさんにくっつきたいからである。ぎゅっとあの暖かい手で抱きしめて欲しいし、撫でて欲しい。キスの雨だって降らせて貰いたい。
____しかし、言えない。恥ずかしい。
いつものイギリスさんなら、随分甘えただなとかなんとか言いながらも、なんだかんだ嬉しそうにハグだのキスだのをしてくれる。求められて嬉しいと顔に書いてあるのがよくわかるし、わたしだって嬉しいのだ。
なにがって、そりゃあ何も言わなくても察してくれるほど親密になっていることが。
...あと、ハグやキスをしてくれることも。
それなのに、今日のイギリスさんは意地悪だ。
「俺、日本人じゃないから空気を読むなんてできないぞ。言いたいことはちゃんと自分の口で言え。」
なんて。分からないはずがない癖に、ニヨニヨしちゃって。
彼がただ言って欲しいだけなのはわかっている、でもどうしても言えない。
鮮やかな緑の瞳に見つめられて、カッと頬が熱くなった気がする。
嗚呼、まずい、頭が回らなくて言葉に詰まる。いつものわたしなら、きっともっと上手く何か返せた。それこそ昔からの日本人女性のように、直接的な表現はせずに、男性をたてて。
あの人の鮮やかな、覗き込めば奥まで続く森林が見えそうな、あの緑に呑み込まれそうだ。緑の瞳はいつだって私の思考を蝕む。
静まり返り、ピンと張り詰めたこの空気では息が出来そうになくて苦しい。