第1章 <気になる奴>
気付けば俺はソファから立ち上がり、女のすぐ後ろに回っていた。
『珈琲も飲み……ます…か?』
「………」
『!?』
後ろ姿に引き寄せられ、思わず抱き締めてしまった。自分がその事に気付いたのは腕の中に収まる彼女の温もり。
…あー、やってしまった。無意識とは言えこれは手を出したうちに入るのだろうか?等と考え出す。しかし、このまま解放する気は無い。
『……貴方、今自分がどの様な格好かご存知で?』
「色々と済まないと思ってる」
『だったら早くこの腕を…』
「抱き締めちまったモンは仕方ねェだろ」
『何も仕方なくなんか無いです』
そう言うも女は俺の事なんかお構い無しに、朝食の支度を再開させる。無理矢理離れようとしないのは、少なくとも"とても嫌"では無いのだろう。例え"嫌"ではあっても、取り合うだけ無駄だと感じたかもしれねェしな。どちらにせよ俺にとっては好都合だ。
優越感に浸っていると、先程の会話を思い出した。珈琲は飲むかどうか聞いてきたな…そういえば。
「俺はブラックで良いぜ」
『……』
「オイ、聞いてんのか?」
『聞いてますよ。動きづらいんで退いて下さい』
「…チッ」
滅多に無いであろうこの様なチャンスをみすみす逃すのは惜しいが、これ以上嫌われない為だと思えばすんなり離れる事が出来た。だが、俺の口は正直なもので舌打ちを零した。