第5章 パーティの夜※
彼が先ほど前もって予約しておいたという宿は小綺麗ながらシンプルかつ素朴な作りだった。
小さな調理場とミニバーのようなものと、寛げそうな大きなベッドが一つ。
……ひとつ。
よせばいいのに私もわざわざ復唱するものだから、それで自分の心臓が跳ねるのも自業自得だと思った。
「結構疲れたね。先にシャワー浴びてくる」
「は、い」
「また一緒に入るなら」
「結構です!」
もう。ルカさんの意地悪ってああいうとこだ。
彼がくすりと笑って出て行ったドアをつい睨む。
あれ? でも。顎に手を当て考える。
『いつも逃げるのはリラちゃん』
そうじゃなくって、からかってる訳じゃなくって、いけないのは私のこういうとこ?
パーティの最中に悲しげに私を見ていたルカさん。
思い出すとちりりと胸が痛む。
何だろう。ああいうのは、凄く嫌だ。
私は意を決して立ち上がった。
そしてバスルームの扉に向けて威勢よく声を張ってみる。
「ルカさん! ルカさん!!」
「え?」
バスタオルを抱き締めながら戸口に立ってる私に、どうしたの?という顔でルカさんがそこから顔を出した。
「真夜中に大声でなに? リラちゃん」
どうやら彼は既にシャワーを浴びてしまったあとらしく、備え付けのバスローブを着てごしごしと髪を拭いている。
「……なんでもないです」
気が削がれた私は彼と入れ違いにバスルームに向かう。
そして私の鈍臭いのもこういうとこ。
「もしかして、一緒に入りたかった?」
「なんでもないです」
「明日の朝また一緒に入ろう」
「はい、……えっ?」
「ね?」
「………はい」
私の返答に一瞬少し驚いたようにこちらを見、そのあとクスクス笑い始めた。
やっぱり笑うんだ。
「ふ……ごめん、かわいくて。上がったら声掛けて。髪乾かしてあげるよ」
「……はい」
ああいうの、慣れたらもう少し上手くいくのかな。
笑われないで、あのパーティでの、大人の女性みたいになれるのかな。