第5章 パーティの夜※
「言ったと思うけど二割マーキングみたいなもんで、あとは単にリラちゃんに触りたいからやってる」
「ほら、またそうやって」
「リラちゃんが勝手にそう解釈してるだけ」
静かにそう言ってこちらを見詰めてくる彼に居心地の悪い思いがした。
「いつも逃げるのはリラちゃん。違う?」
「…………」
「でも瞳は僕を嫌がってない。だからきみを離せない。意地悪して欲しいんならするけど」
口を開きかけて何か言おうとするのだけど喉が詰まって言葉が出てこない。
怖い、から。
……それがなぜかは分からない。
「で、時々そうやって怯えたみたいに泣きそうになる。ケリーに教えてやるとすれば、それ、濡れた森みたいな緑の色だね」
分からないけれど、ルカさんには自分の感情の束を掴まれているような気がするから。
「きみはどうして欲しいの?」
そして困ったような寂しそうな表情をして、ルカさんが私に触れる。
涙も出ていないのに私の頬に指を沿わす。
「……近くて遠い。繋がっても足りないのって、何なんだろう」
彼の心の片鱗。
相変わらず静かで、けれど少しもの悲しい。
怖いと思う気持ちに蓋をして、私はルカさんの手を両手で包み自分の頬に彼の手のひらを当てた。
それは私の面積では余る位だったので、持て余した部分が耳や唇に触れる。
遠いと言われると本当に遠くなってしまうような気がした。
そんな彼を引き留めようと思って、その肌にそっと口を付けた。
「ふ……それ、煽ってる?」
胸がいっぱいになって思わず小さく息をつく。
「近く、なりましたか?」
ルカさんの青い灰色の瞳がずっと私から離れない。
それに吸い込まれるように私も目を離せない。
眩しい大小の光が瞬き寄せる中、周囲の喧騒が遠ざかって滲んだ景色に溶けていく。
ただ近付いてくる彼を感じて目を閉じる。
「うん」
そして私にはルカさんとのキス程眩しいものはないと思った。
たとえ何も見えなくても触れる感触で。
その息遣いで。