第2章 リラの旅じたく
お留守番の最中に私は大きく体を伸ばしつつそういえば、と思いだす。
今日は成弥の仕事とお休みの、ちょうど真ん中の日。
やだな、もしかして夜に『アイツ』が来るかも。 そんな事を考えると、尻尾が不快感でブンブン左右に忙しなく動いた。
「ん……?」
……一瞬、部屋の中に空気の流れが出来た事に気付いた。
閉じられた窓と壁の隙間。嗅ぎ慣れない匂いがする。
なんだろう? 私と似たような、違うような。
窓の方向に目を凝らすとベランダの柵の隙間に、黒い三角が二つ、下から覗いている。
なあに、あれ?
「にゃーん」
突然そこからにゅっ、と姿を現したのは大きな黒猫。
「……!??」
ここ確か、三階なんですけど!?
私が驚いていると、その猫は前足でちょいちょいと窓を軽く叩き、何をどうやったのか、閉まっていた窓ガラスをすり抜けるかのようにぬるりと室内に入ってきた。
「ちょっと、なに!? 」
突然の侵入者に面食らい、私は咄嗟に部屋の奥にある襖の中へ逃げ込もうとした。
「ああ、待って」
声の主は暢気な高い声で私を呼び止めると、まるで人がするような仕草で前足を浮かせて私を制した。
その次の瞬間、黒猫は七色のぼんやりとした霧の様なものに包まれ形を変え。瞬きののちには人の子供の姿になっていた。
「───────」
人で言う、腰を抜かした状態ってこういうことをいうのだろうか。つい畳にお尻をぺたんとつけてしまう。
「あはは。 難しい言葉を知ってるねえ」
だって、成弥は学校に行ってない代わりに勉強家で、しょっちゅう図書館で本を借りてきて読んでいるもの。
「ふーん、努力家なんだね」
そう、そして夜は私に読み聞かせてくれる優しい飼い主でもあり……じゃなくて!
今、私、声に出してなかったよ!!
「えっ!!??」
「くっくっく……リラ、面白い」