第2章 リラの旅じたく
私の名前まで知っている目の前の不思議な人間は、出会った頃の成弥位の歳頃の少年だった。
だけど彼がその辺の子供と違うのは、腰まで伸びた濃い緑色の髪と、何よりもその、赤よりももっと鮮やかな、朱色の瞳。
いわゆる『普通の人間』で無いことが私にもすぐに分かった。
「リラ、はじめまして。僕の名前はキルス。なんて言うんだろ……この辺一帯の動物たちの護り主だよ。ここの近所にある、多くの動物たちが眠り祀られている土地に住んでる」
私(重ねて言うけど猫)の言葉を理解した上で自己紹介し始めた彼を、私は口をあんぐり開けて見詰めている。
「ああ、猫になってたのは仮の姿ね。極力キミを驚かせたくなくて。でも、あんまり意味無かったみたいだけど」
落ち着いた口調と話の内容に反してうふふ、と年相応の表情で微笑む彼からは、私に対しての敵意や危険な様子は感じられなかった。 私はそろりと歩み寄り彼、キルスの正面に座ってみる。
「えっと、マモリヌシって……神さま、みたいな感じですか?」
見上げている私の頭の上に視線を移し、彼は首を少し傾げながら言葉を選ぶ。
「うーん、厳密にはちがうんだけど。 彼等はここには降りて来られないし。でもまあ、系統としてはその仲間かな」
「神さまの友だちでしたか。はじめまして!」
私は納得してぺこりと頭を下げた。
成弥は昔、悲しいことがあると神さまにお祈りしていた。 私は会ったことはないけれどよくお世話になっている人なのだ。
「ぷぷ。リラといい成弥といい、ホントにキミたちって……」
ん、やっぱり成弥のことも知ってるんだ。神さまから聞いてるに違いない。
私はすっかりキルス様に気を許し、尻尾をぴんと立てながら傍に近付き彼の膝の端に手を置いた。
「今日ここに来たのはね」
畳の上に胡座をかいているキルス様。窓の外のお日さまを背景に、それに負けない位のにこにこ顔で話し始めた。
「成弥が大切にしてるキミに会いたくて。成弥は毎朝僕にお参りしてくれる。依り代を綺麗に掃除してくれたり、キミの事を話しに来るんだよ」
「大切……」
キルス様が私に伝えたその言葉を聞いて、体がぽっと熱くなった。
そうなの。 成弥はいつも私をとても大事にしてくれる。