第4章 二人目 チーズ職人ビー
「……家持ちってなぜか差別されるんだよねえ。嫉妬か軽蔑か分かんないけど」
ルカさんが彼らの後ろ姿を見送りつつ面白くもなさそうに呟き刃物を元に仕舞った。
「とりあえず、帰ろう。ほら、リラちゃんも」
「リラちゃん?」
「リラさん?」
動かない私にそばにいたビー君が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「リラさん、ごめんね。僕、もう大丈夫だよ。顔が真っ青だよ。僕の肩に掴まって?」
───怖かった
今更ぶり返して来たのか自分の体が縮こまっている。
そんな私の脇にビー君が潜り込み、微かな笑みを向けた。
私に気を使ってくれているのだと分かった。
ぴったりとくっついてくる温もりと彼の笑顔を見て、ようやく震えが治まってくる。
それでも喉の奥に小さな虫の様なものがつっかえていた。
それのせいで不快な息をし続けなければならない、複雑な気分だった。
二人はそんな私に合わせてくれたようで私たちはゆっくりと歩いて帰路についた。
「リラさん、腕から血が出てる。待ってて」
家に着いた途端ビー君がそう言ってリビングの部屋を離れた。
細く赤い線が腕を走っている。
相手をかわした時だろうか。
私もそうだけれど、多少は元の爪が残っているのだろう。
やっと気分が落ち着いて小さく息をつき、先ほどから無口な様子のルカさんにお礼を言おうと声を掛けた。
「ルカさん、助けてくれてありがとうございます。でも、なんで私たちのいる所が分かったんですか?」
「市場も出てないのに二人してなかなか戻ってこないって変でしょ。 きみの無鉄砲さは過去を視て分かってたからね。あれ位離れてても多少思念は届くし、日頃からマーキングっぽいのもしておいたし」
マーキング……。
思い当たることは多々ある。
過度なあれらはその為だったのか。
「でも男三人相手にってリラちゃん、それ無謀越えて馬鹿だから。向こうが武器でも持ってたらどうすんの」
「馬鹿っ…て…」
そんな言い方、しなくても。
だけど助けてもらったのは確かだ。
「……ごめんなさい」
「今度からはああいう時はせめて僕を呼んでくれる? 割と真面目にお願いするけど」
いつものような笑みもなく窓際に立ったままのルカさん。
怒っているのだろうか。
先ほどの彼も正直怖かった。
「……は、い」
それに気圧されて思わず返事をした時ビー君が足音を立てて戻ってきた。