第4章 二人目 チーズ職人ビー
「……ルカさん!?」
呆れたような溜息とともに彼が私に並んでいた。
「全く…勇ましいね」
彼が先ほどの瞬間に何かをしたのか、男は腹部かどこかを痛めたらしい。体を折って苦しげな様子だ。
「なっ……!? 次から次へと」
「ビー君、来るんだ」
「お前、も仲間か?」
周りの怒声や突っ伏している男の呻き声に我関せず、ルカさんはビー君に向かって手を伸ばした。
「おいで。リラちゃんの言うとおり、こいつらは友だちなんかじゃないから」
「で、でも」
「僕たちがいる。おい、お前。ビー君を離すんだ」
ルカさんは懐から私が持っているよりも何倍もの大きな刃の短剣をゆっくりと引き抜いた。
残りの男たちはぎらりと光るそれを見てヒッ、と喉元から怯えた声を出す。
「ヒト型じゃ犬族とはいえ、ご自慢の牙は余り役に立たない……あんた達が馬鹿にする家持ちは普通にこんなものも持ってるから、これからは気を付けた方がいい。で、仲間とか、逆に聞くけど、『これ』とはオトモダチとやらなのかねえ。助けてあげないの?」
ルカさんが普段どおりの落ち着いた表情でそう言い、膝を曲げると足を大きく上に上げた。
「ぐは!!!!」
それが足元に居る男の側頭部に狙いを定め躊躇無く振り下ろされた時、何かが潰れるような嫌な音がした。
男の顔はうつ伏せで見えない。
血と吐瀉物の混ざった匂いがした。
静かになった男の指がぴくぴくと動いている様子で、辛うじてまだ息があることは分かる。
でも、明らかにこれはやり過ぎではないだろうか。
驚きも怒っている様子も無い淡々とした様子のルカさんは私たちも含めたこの中で一人異様な雰囲気を纏っていた。
そのせいか残りの男たちもすっかり耳を寝かせて小さくなっている。
「ル、ルカ、さん……」
「おいで。ビー君」
ビー君はしばらく私たちの方と犬の男たちに向けて視線を何往復かさせていたが、意を決したように私の元へ駆けてきた。
「ルカさん、……僕」
私は何か言おうとするビー君を引き寄せて肩に手を回した。
ルカさんが後ろに二歩ほど下がると残りの二人の男がその隙に、倒れてぐったりとしている男性を助け起こした。
ちらちらと彼の様子を注意深く伺い、仲間を引き摺りながら足早にその場を離れて行く。