第4章 二人目 チーズ職人ビー
この人たちは本当にビー君と親しいのだろうか。
自慢する事でもないけど元猫の私は逃げ足、もとい短距離なら自信がある。
もしこの人たちが犬族だとしたら、私一人ならなんとか逃げられる。
でも、男たちを挟んだ向こうにはビー君がいる。
迷い、恐れ…怒り。
そんな交差した強い感情にぶるっと私の体が震えた。
「リラさん、逃げて!!」
「……あなた達、本当にビー君の友だちなの?」
相手は私の言葉に可笑しそうに顔を見合わせ、ビー君の肩を掴んで荒っぽく抱き寄せた。
「ああ、お友だちだ。お前、リラって言ったか。だから生意気な真似は止めて大人しくするんだ」
ビー君の所に向かおうか、大通りに戻ろうかと逡巡しつつ身動ぎをした私に別の男が言う。
「逃げるなよ。このハムスターのチビがどうなってもいいのか?」
ビー君はそんな彼らの言葉に唖然として立ち尽くしていた。
彼らとビー君を見てからの、先ほどからの不快感の意味が分かった。
「……そんなの友だちなんかじゃない」
友だちなら、何かを脅す時の盾なんかにしない。
そして再度、私に向かって早足で寄ってきた男の顔が一瞬歪み、後ずさる。小さく驚いた声を上げ自分の腕を庇いながら。
私の手に握られている小型のナイフから赤い血が滴っていた。
「ッこいつ……っ」
ルカさんが私に持たせてくれたものだった。
普段の生活でも役に立つそれを、私はいつも身に付けていた。
夢中で振ったのだがどうやら相手の肘と肩の間を切り付けた様だった。
「リラさん!!ちょっと、離してよ!」
男たちは刃物を手にしている私を見、怯んだ様子をみせた。
最初から感じていた不思議な感情。
ビー君は雰囲気がどことなく、小さい時の、出会った頃の成弥と似ている。
改めて体勢を整えながらじりじりと私を囲み始める彼らを、逆にぎっと睨んだ。
私が絶対に守る。
私に近い所に居た男が獣じみた、威嚇をするような低い唸り声を上げる。
「こ、の………ッ」
声を上げながらこちらに飛び掛かかる。
泣きそうな表情で私を呼ぶビー君が視界に入った。
その彼の顔がちょうど私の後ろ辺りを見て驚きに変わり。
「……ンがッッ!?」
軽く彼のシャツを掠って再び身を翻した私の脇で倒れかかる男。
苦悶の表情で身を折り、舗装もされていない地面にがくんと手を付く。