第4章 二人目 チーズ職人ビー
滞在中の買い出しや食事、合間のチーズ工房のお手伝いなんかは力が強くて一番料理上手なルカさんが担当することになった。
ルカさんもビー君も、本当によく働く。
いくら飼い猫だったとはいえ、いつも成弥に任せ切りでお昼寝ばかりしていた自分を少し恥ずかしく思った。
「あはは、それは無い無い」
「人間界での猫は寝るのが仕事。 猫が犬みたいに羊の監視なんてしてたら怖いでしょ。まして雪山なんて行ったら人助けより僕がやばいって」
猫は元々は砂漠の生き物。そもそも寒さや湿気には滅法弱いのだ。
「適材適所だよねえ」
夕食後にはリビングに集まって話をした。
今晩私はルカさんがこちらで急遽作成したという木苺のごく軽いお酒を飲んでいる。綺麗なピンク色で口当たりがよく甘酸っぱい。
多少のお酒も料理のうち。そう言う彼は食前のワイン選びに余念が無い。たくさんのボトルを並べて一瞬唇を濡らすだけのそれがなんの意味があるのかは分からないが、これも仕事の一環だそうだ。
「リラさん、それ美味しい?」
「うん。 まだたくさん実が成ってたよ」
「新鮮な苺じゃないと出来ないから。ビー君、分けてくれてありがとう」
「せっかくだから食べてみる?」
私はグラスの中の実を摘むと、ビー君の小さな口に一粒ぽとりと放り込む。
「ん。……美味しい、ね」
「でしょう?」
彼は赤くなりながらもごもごと口を動かしている。それを見て、釣られて私の顔も火照る。変なことしちゃったかな。
「リラちゃん、僕にも」
「あ、はい」
ルカさんは手を伸ばそうと立ち上がりかけた私の腰に手を回し自分の方にくいと引き寄せた。
「……!」
そうして、ルカさんにキスをされ………る前に、私は自分の口元に手を当てて無事にそれをガード。
「………バレた?」
「いくら何でも、人前です」
悪戯っぽい目をする、そんな彼からは飲んでいたワインの香りがする。それでもルカさんはなかなか離してくれず。
「そう言えば、人前じゃ無い時は拒まなかったかな」
そんな事を呑気に思い出そうとしている。
するとこちらも彼の家でのあれこれが蘇ってきてしまい、直後、それをじっと見ているであろうビー君の存在に気付き私は慌てた。
「ビー君もリラちゃんとしたい?」