第4章 二人目 チーズ職人ビー
「それって、……ビー君のことですか?」
「分からないな。 でも、きみはいつも正しいみたいで良かった」
「??」
彼は私の髪から手を離し、こめかみに軽く口を付けてきた。
そして私の耳元に顔を寄せ低目の声で囁いてくる。
「続きをしたいなら応えるけど?」
「もう、結構です!!」
こちらのリアクションのせいかくく、と押し殺すみたいに笑っているルカさんの背中を押しやり、ぐいぐいと戸口に追い立てた。
「あ、ルカさん」
なに?という顔で彼が振り返る。
「……最近は、嫌な夢をあまり見なくなりました」
ルカさんはそんな私の頭に軽く撫でる様に触れ、微笑んでそっと後ろ手でドアを閉めて出て行った。
……そうはいっても。
『転生もせずに魂も消えてなくなる』
どうやらこの世界はルカさんが最初に言った通り、丸っきり天国という訳では無いらしい。
部屋をぐるりと見渡すと重厚な様子の家具の中に一際豪奢な装飾で鎮座する広いベッド。
『リラ、そこで寝るのはいいけど朝腹にダイブしてくるのはナシな』
狭いお布団の中。成弥の胸の上でうとうとしていた私の毛に沿うように撫でてくれていた。
無骨な、でも優しい彼の手。
例え嫌な夢を見なくなっても成弥を恋しく思う気持ちは変わらない。
「……夢でもいいから成弥に会えますように」
複雑な気持ちでベッドの隅に潜り込んで目を閉じた。