第4章 二人目 チーズ職人ビー
夕食の後片付けを終え、お風呂をいただいた後にビー君に前もって案内されていた寝室に向かっていた途中。
「リラちゃん、ちょっといい?」
道すがら、私を待っていた様子で廊下に立っていたルカさんに呼び止められた。
タオルで髪を乾かしている間、彼は何やら考え込んでいるようだった。
「どうしたんですか?」
「あ、僕乾かしてあげるよ。後ろの辺りはやりにくいだろうし」
髪を小分けにして彼がタオルで丁寧にそれを拭き取っていく。
お尻まである長い髪は鬱陶しかったけど、ルカさんは彼の家にいる時から何かとこんな風に気を使ってくれていた。
そうされながら目を細めている私に彼が話し掛けてくる。
「さっきここにしばらく居るって言ったの、あれ、勝手に決めてごめんね」
「え、そんなこと私、全然気にしてないです。 市場も見てみたいし」
「そうじゃなくてね。 実はビー君のことが少し気に掛かってて」
「あ、私もです」
ルカさんが目を上げて私を見る。
「彼、最初の印象より凄く大人びてるけど、なんだか違和感があって。 ルカさんなんかと難しい話してる時とか? なんて言うか……無理にそうしてるような? 良い子なんですけど」
裏表がある、そういう言い方もしっくり来ない。私に対するビー君はいつも無邪気で素直な様子なのに、ルカさんとの時はすっと抑えた表情になる。
言葉を選びつつ説明する私に軽く相槌を打つ。
「……そうだね」
ルカさんは少し体を屈めて指の間に挟んだ私の毛先に唇を付けた。
「…あ、あの?」
彼の若干過度なスキンシップには少しだけ慣れてきた。とても優しいけど意地悪な彼は、慣れてない私の反応が面白いんだろうか。
「これも伝えておいた方がいいかな。 僕たちは、寿命が無いわけじゃない」
「え?」
彼が思慮深い表情で続ける。
「……正直、僕はここまで大きな建物を初めて見た。 百年か何百年かは正確に分からないけど、僕ら、この世界の家持ちの寿命も、ちゃんと尽きるようになってる。 その時は転生をせずに魂も消えて、ただ無くなる。 これは僕の個人的な考えなんだけど、何でも大きくなり過ぎるとバランスを欠くからかな。 大昔の動物や人の世界もそうでしょ」
「……………」