第4章 二人目 チーズ職人ビー
「ああ、でもこの辺の市場、少し治安が悪いようだけど。ビー君大丈夫なの?」
「大丈夫、慣れたらそうでも無いよ」
男性陣のテキパキした動きと共にあっという間にテーブルにカラフルなご馳走が並べられた。
ちなみに私はハーブを摘むのを手伝った。
「わあ、美味しそう!!」
ルカさんが私に目をやり、含み笑いをしつつビー君にワインを注ぐ。
「ご飯が出来たらやっとお嬢さんのご機嫌が直ったみたいだね」
「ルカさん、もー!」
私たちのやり取りを見ながらクスクス笑っていたビー君がふと思い付いたように訊いてきた。
「そういえば、二人は恋人同士なの?」
ええっ!?
私は速攻で首を振った。
「それは、私には成」
ものを言い掛ける私の唇の間につい、とルカさんが何かを押し込んだ。
遅れてそれがトロっと蕩けたチーズを自身の指に取ったものだと頭が理解した。
「ん?、んんんーん、ん」
お、美味しいです、ととりあえずもごもご口を動かす。
それをゆっくり抜き取り、次いでその指先を自身でぺろりと舐めてルカさんが微笑んだ。
「うん、美味しいね」
「……………」
また、ルカさんに遊ばれてしまった?
でもこんなやり取りしたら、ビー君に誤解されてしまうんじゃないの?
熱い顔を意識しつつちらりとビー君に目をやると彼もまた赤くなっていた。
それからも和気あいあいと食事が進み、ビー君が作ってくれたフォンデュソースのチーズが固くなった底の部分をちまちまつまみながら、私は彼らを眺めていた。
先ほども思ったけど、ビー君は見掛けによらずとても博識でルカさんとも対等に話しているようだ。
僕らはあまり干渉し合わない、と以前ルカさんは言っていた。
確かに話題は生活についての情報交換が主で、どちらかというとあっさりとしたものだ。
そんなやり取りも終わりに近づいた頃ルカさんがビー君に提案した。
「ビー君、僕たち数日ここに居ていいかな? 週末ここで大きい市場が開かれるようだから行きたくて。 その代わり、家事や溜まってる仕事なんかを手伝うから」
「分かった。工房も忙しいし、もちろん、いいよ」
ビー君が快くそれに応じた。