第4章 二人目 チーズ職人ビー
「うん。 彼はいつも私のことを心配してくれるから、怒る時はいつも彼が悲しいの」
「怒る人が悲しいの?」
「そう。 そしたら私も悲しくなるけど、怖くはないの」
「??」
彼が不思議そうに丸い目を見開いた。
薄い色の睫毛に縁取られた黒く濡れたような瞳。
私のものより濃い色の、癖のかかった髪。
元の世界で成弥が見ていた本の挿絵に、ビー君に大きな白い羽の生えた人間の絵があったなあ、とぼんやりと思った。
「ね。そういえば、ビー君は何かを作ってるの? ルカさんはお酒を作ってるの。 ビー君は何をしてるの?」
「僕? 僕はチーズを作ってるよ。 見たい?」
チーズ。元の世界では滅多に食べれなかったご馳走だ。
「うん、見たい!」
彼の目が輝いて表情がぱあ、と明るくなった。
ビー君と一緒に部屋から出ると、壁にもたれたルカさんが戸口に立っていた。
「あれ? ルカさんいつの間に?」
「僕も行くよ。 きみたちに任せてたら僕の家もお城かなにかになりそうだ」
「へ?」
さてはルカさんもチーズが気になるのね。
ビー君と私は嬉々として、ルカさんはそんな私たちの後に付いてその場所へ向かった。
一旦家の外に出て裏庭に回ると表の門とは別に、家の中の別の道へと辿る小さなドアがあった。少し屈んでビー君の後に続き、下へ伸びる階段を降りて行く。
「痛っ」
低い天井に頭を打ってしまった私に、前をとことこ歩いていたビー君が声を掛けてくれた。
「少し暗いから気を付けて」
下から立ち上るクリームや芳醇なチーズの香りが強くなる。
到着した地下にはちょっとした広さの工場のようなものがあった。
工房、という形容の方がしっくり来るだろうか。
「わあ。 凄い」