第3章 一人目 案内人ルカ
翌日の昼過ぎ。
私たちは旅の支度を整えていた。
準備といっても私はここの世界に何を持って来ているわけでもなく、ルカさんが手早く大きめの鞄をぱんぱんにするのを黙って見ていた。
「何うろうろしてるの?」
「あの、お手伝いします」
「え、それ先に入れたらこっち入んなくなるでしょ?で、これはぐしゃぐしゃにしたら皺になるやつ。いいからリラちゃんはそこに座って僕の目の保養係でもしといで、ほらホットチョコレートでも飲んで。ああ、いい、鍋焦がす位なら僕が作るよ」
そして一口、ずずっとホットチョコレートを口にする。
……ほろ苦くて甘いおいしさに涙が出そうになる。
窓から外を見ると昨日の雨はどこへやら、また青空が広がっていた。
『もしまた悪い夢をみたらいつでも呼ぶんだよ』
……昨晩の。彼は私の人間界での日常を視て、気を使ってくれたんだろう。つい邪険に扱ってしまった。
ルカさんに、謝りたかったんだけどな。
そう思い、せめてこないだ借りた薬草の本をポケットに入れておいた。
「あ、リラちゃんこれ持っといで」
出掛けにルカさんから護身用のナイフ、という小さなものを渡された。
実用的なものというよりは、柄の部分に細工が描いてある可愛らしいものだった。
「使う事がなきゃいいけど、一応ね。町に行ったらここも割と物騒だし」
「町に行くんですか?」
「とりあえずはね。方向的には、昨晩きみに教えたある人の所へ向かうつもりだけど」
そう言って外に出て戸締りをし、少し離れた所でまたルカさんの家を振り返った。
見た目よりがっしりとした木造りのお家。
中は広く居心地の良い住まい。
焦げ茶の壁にオリーブや針葉樹の銀色の葉が風に揺れている。
そんな様子のルカさんの家に、なんだかお礼を言いたくなった。
「どうかした?」
「い、いいえ。なんでもないです」
「ん、行こうか」
そうして私はまだしっとりと湿った土を踏み締めて歩き出したルカさんについて行く。