第3章 一人目 案内人ルカ
「あ!!熱い!」
私はそこで我に還った。
元の寝室のベッドの上で、肘をついたルカさんが距離を置いて私を眺めていた。
体中から汗が吹き出し、顔が涙でぐしゃぐしゃに濡れている。
「視えた?」
ルカさんは冷たい声で訊いて、私は呆然としながらこく、と頷いた。
私から身体を離した彼はベッドの近くにある鏡台の椅子に戻り座り直した。
「代償」
そして呟いて乱れた髪を括り直そうとしたのか束ねていた紐を解いた。
「自分のも記憶の交換が行われるらしいね。 交換っていっても、お互いの過去が視えるだけっぽい。僕も初めて視たけど」
「ルカさん……」
あれは、ルカさんの人の世界での最期の記憶。
私の目からボロボロと涙が流れ、ルカさんの顔が霞んだ。
彼は首を傾げてそんな私を見ている。
「酷い。 どうしてあんな……」
「別に珍しくない。ホントに食われたのかは分かんないけど、犬や猫なんかがあんな風に虐待受けるってのはよくあるらしいよ。 でも、きみも他人のこと言えないと思うけどな。 わざわざあんな理由で、こんな所に来てまで」
記憶の交換。
言葉通りどうやらルカさんは、私の過去も視たらしい。
「でも、……でも、私悔しいです」
涙が止まらずしゃくり上げる。
怖さや悲しさ、何よりも怒りから来るショックが収まらなかった。
「酷、い。 ルカさんが、ルカさんがあのままお婆ちゃんの所に居られたら、あんな男たちに……!!」
「どうかな。かえって取り残される方が住むところも無くなってしんどかったかも。 それに……」
ルカさんが続けた。
「前に冗談交じりで言ったけど、俺……僕はあんな事があったからか、かなり酷い事もしてるよ。 ウサギの話は流石に悪ノリが過ぎたけど、ここに来て最初の頃、ちょっとしたいざこざで他人を傷付けてたし。同族は殺さないって言っても、追い返したことも何度もある」
そう言って彼が私の方をちらりと見た。
「まあ、家持ちに近付きたいやつがいるっていうのは、その前に話には聞いてたけど。だけど僕は他人にあんなの視られたい訳じゃないし、別に繋がりたい誰かを必要としてる訳でもなかった」
『僕も人の事は言えない』
私は、無理に彼の中の、視て欲しくないものを覗いてしまったのだろうか。
「……ごめんなさい」