第3章 一人目 案内人ルカ
確かに私は視ている。
けれど私の心を支配していたのは彼と同調した五感から流れ込む、その思いだった。
「なんだよその汚ったねえネコ」
「そんな言い草ないだろ。わざわざ親切なババアからこのオモチャ譲ってもらったんだぜ。自分はもう老い先短いから、置いていくのは忍びないからってさ」
若い男達の声。
声の主の手に薄汚れた猫がぶら下がっている。
「じゃあ今晩は猫鍋だな!」
ぎゃはは、と先の声の主は笑う。
猫は怯えきっていた。
青い目の瞳孔が開き切り、力無く声を荒らげて威嚇している。
「まずはこいつ、洗おうぜ」
猫はシンクに乱暴に放り投げられ、いきなり頭から水を浴びせかけられた。
「ッニャアアア!!!!」
突然のことに驚き、濡れた猫がシンクから飛び出して部屋の隅に逃げ込んだ。
「おっとと、逃がすなよ!」
「だってこいつすばしっこいもんよ」
「待てよ。 これで」
一人の男が長いバットを手にして、ジリジリと猫に近づく。
猫はその場から動かずに小さく縮こまって震え、目を固く閉じている。
硬い棒がシュッと空を切り、柔らかな腹部にめり込みギャッという悲鳴と共にそのまま大きく投げ出され、壁に叩きつけられた。
「ネコのタタキってか」
二人はゲラゲラ笑い合い、男はぐったりした様子の猫を台所用の洗剤で乱暴にゴシゴシ洗うと、細いビニールテープを首を巻きつけ洗濯バサミでハンガーに吊るした。
洗剤が落ちきっていないのか目は閉じられたままで、口元からは舌がだらんと垂れてピンク色の泡を吹いている。
猫は白く、耳や尻尾、鼻先等の体の先端はグレーだった。
野良猫では見掛けない外見に、若い男が眉を上げる。
「つかこのネコ買ったら高ぇんじゃね?」
「そうかな。 ババアがよ、俺に寄越す時に可愛がってやって下さい可愛がってやって下さいねって、何度も頼みやがんだよ。 うぜえのなんの」
「ぷっ、可哀想にな。 お前、恨むなら捨てたババアを恨めよ」
「大体最後まで面倒見れないのにペット飼うなんて、無責任だよなあ」
狭いテーブルにはくつくつと沸いた大きな鍋が置かれ、猫は息も絶え絶えな様子でそれを眺めている。