第3章 一人目 案内人ルカ
だけど、なんでいきなり?
「ん……こんなの…ズルい、です。さっきも、どうして」
よくよく考えるとどんなつもりで私にキスなんかしてきたんだろう。
そんな彼を非難するつもりで睨む。
でもずっとやわやわと触れられて、そちらに気を取られ過ぎてしまっているお陰で、いまいち迫力に欠けていると思う。
「そうかも知れない。僕もよく分からない」
耳元で囁かれた後に耳朶をはく、と食まれびっくりして体を捻ってしまう。
ベッドが軋む音。
ルカさんが私の上になって両側に肘を付いた。
軽く掛けられた彼の体重のせいで動きづらい。
「雨の日って人恋しくならない?」
人恋しいからってこんな事しない。
「な、らないです」
だけど、最近私の感情がどうしようもなく不安定なのはなぜだろう。
「これからはそうなる」
ルカさんは私の着ていた彼のシャツの下の、肩に下着を支える細い布の間に指を入れてするりと肌を露わにさせた。
「そっ……んな」
ひんやりとした肌寒さを肩に感じたと思うと、一瞬温かい吐息が触れルカさんがそこに急に歯を立てた。
「……ぃっ」
どこかいつものルカさんじゃないと思った。
思わず彼の胸を押そうと手を伸ばす。それに動じる様子もなく、顔を背けている私の上に声が降る。
私の顔も体も熱かった。
「別にそれだけじゃないけど」
「ど、ういう……」
ルカさんが先ほど噛んだ私の肩を手のひらで包み指で撫でた。まるで謝るかのように、そこへ残っているであろう歯型に丁寧に丁寧に唇を添わせる。
そしていつもの穏やかな声。
「後から教えるよ」
「待……って、ルカさん!」
「どうしたの?」
いきなりの私の大声に中断されたルカさんが、何事かと顔を上げて私を見下ろす。
だから、なんでいきなりなんだろう。
こんな急にされたら心臓が持たない。
「いま、知りたい、です。なんで私に?」
「……きみの欲しいものをあげようと思ったんだけど」
そんな話かとでもいうように彼が短く理由を答える。
「多分、逆に僕が欲しくなっただけ」
「え、それ……」
待って、それじゃ分からない。
だけど抵抗する私の両の手首は束ねられてしまい。
瞬きをしたルカさんの瞳の蒼い残像が最後にブレて。
「もう黙って」
私のお喋りも塞がれてしまった。