第3章 一人目 案内人ルカ
「でも、だからって僕が気を悪くする事でもないんだけど。きみが一生懸命なのは分かるし。なんていうんだろね、こういうの。歯痒いとか?」
私は俯いた。
そう言われて見ればそうだ。話してくれないって、信用されてないのかなって、私なら思ってしまう。そして、そんな相手と友だちになりたいかな?
そう言った彼も同じように視線を落としている。
「でも僕も、あまり人のことは言えない」
床を見詰めて苦笑する。
その時不謹慎ながらも私の頭には、全く関係のない事が頭に浮かんでいた。
ルカさんって、よく見ると眉毛も睫毛も真っ黒じゃなくて薄く、毛先が明かりに透けている。
桜の花びらみたいな色の唇。
これにさっき触れたのだと思うとどきどきしてきた。
猫時代はさぞもてたんだろうな。
「え? 別に普通だよ」
いつの間に私は口に出してしまってたらしい。
あわわ、と焦る。
「リラちゃんこそこんなにかわいいのに、好きな雄がいなかったなんて勿体無いね」
「わ、わたひは成弥を……」
また言葉がおかしいらしく、自分の発言がかなり間抜けに聞こえたので、口を閉じる。
彼が腕を伸ばして私の頬に触れた。
「……ん、」
その感触にぴく、と身体が動く。
「気持ち良くなっちゃった?」
そうやってすりすりと手の甲で私の頬を撫でながら、ルカさんはこちらを覗き込んだ。
気持ちいい。ふわふわするしあったかくて。
「……ふ…ぅん」
つい猫のような甘えた声が出てしまう。
「またたびって催淫性もあるんだっけ。 リラちゃんって本当に引っかか、迂闊なんだねえ」
人差し指がつつ、と私の首筋に移動した。
うなじの産毛にさからうように、爪先で軽く引っ掻かかれてぞくぞくする。
ぽうっとした頭で私はされるがままになっていた。
顔を近付けごくごく軽い調子で、私の頬や瞼に口付けられてくすぐったい。
彼の目が細く開き、目の色が溶けそうな距離で見詰め合うと、瞳の色が僅かに暗く翳った。
「ぁっ……」
彼の指先が私の胸の膨らみを軽く押す。
そこが一旦沈んでルカさんに包まれる。
最初の時みたいに訳が分からないってのでもないし、いくら私でも今、何が起こっているのかは分かる。
成弥と知佳がしていた人間の行為……