第3章 一人目 案内人ルカ
私は黙ってしまった。
もしかして、こないだ夢をみて泣いていたのも見られていたんだろうか。
けれど、何かあったといってもそれは別の世界に住んでいるルカさんとは、関係の無いこと。
今でも十分にお世話になっているのに。
ここに来た理由や……私の内にある暗い感情なんて。
「分かってないな」
彼は無言のままの私にそう言い両手を伸ばすと、私の顔を挟んで自分の方へぐいと引き寄せた。
ルカさんの顔からずり落ちていた本がバサッと床に落ちて裏返しになった。
寝転がった彼に逆さまになった体勢で、強く唇を押し付けられる。
「──────」
あまり急の事で、こういう時の反応を忘れてしまった。
いえごめんなさい、『忘れた』は見栄だった。その前に未経験でリアクションが分からないってのが正しい。
顔を離して目を見開く私を見詰めていたルカさんがぽつりと呟く。
「……その顔、タコみたいで面白いね」
………なんで真顔でそんな事を言うんだろうこの人は。
大体、人の顔を両手でむにゅって挟んでるのはそっちだし!
これをそのままに抗議するとこうなる。
「りゅ!!りゅひゃひゃんがこれしちゅる!!」
「ふっ!!」
そして本格的にツボにハマったらしい。
ルカさんが私から顔を背けてふるふると震え出した。
もう、この人ってホントに!!
そうしてる間に、こちらの顔に当てていた手に力が抜けたので私はそれをぱしっ、と払い除けた。
「る、ルカさんの馬鹿! 無神経ッ!!」
う、と嗚咽が漏れて来そうになってしまったので大急ぎで口を手で覆った。
同時にぼろっと涙を落した私を、ルカさんが上体を起こし驚いたように見ている。
「……っ」
彼が何か言いかけようとしていたのが目の端に入った。
だけど私はとうとうそこから立ち上がり、リビングから飛び出るように部屋の外に逃げ出した。