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小さな愛【R18】

第3章 一人目 案内人ルカ



こちらに来て、初めて雨が降った。

ヒト型になったとはいえ元猫のルカさんと私には少しばかり気怠い日のようだ。
ルカさんの仕事も季節的に今は仕込みの時期では無いという。

彼の家のリビングの部屋にある大きなL字のソファで横になり、銘々寝転がりながら私たちは午後の時間をゆったりと過ごしていた。


「ルカさん、こっちの世界はとても過ごしやすいですね」


しばらく暮らしててみて分かったがこちらの生活はとてもシンプルだ。
朝に起きて食べて物を作る。疲れてお風呂に入って、暗くなったら眠る。
仕事の時期じゃないといっても、昼間ルカさんは今の家から少し離れた所にあるという作業場の掃除に行ったり材料の手配の準備をしているようだった。
私はその間家の近所を歩いて薬草の勉強をしたり辞書を片手に生活の役に立ちそうな本を読んだりしていた。


「最初は分かりませんでしたけど怖い人間や車も居ないし、カラスや野犬にも襲われずに皆さん温厚で」

「……まあ、動物が暮らしやすい環境ではあるかも知れないね」


基本的に、ここの人たちは穏やかだ。
種族が違えば割り切りも出てくるし、長く生きていれば本能的に争う事の無駄を知っているからだとルカさんが言った。もちろん例外はどこにでもいるけど、そう付け加えて。

私は『想い』を解放するお手伝いをしなければならないとキルス様が言った。
『想い』が無くなれば、また元の人の世界に生まれ変われると。これはルカさんが教えてくれた。


「なぜ私は、こんな天国から皆さんを解放させるようなことを頼まれたのでしょうか?」


仰向けに寝転がると元の世界のアパートよりもずっと高い天井が目に入る。長い方のソファに居るルカさんは私の頭側で本を読んでいる。


「……別に天国ってわけじゃないけどねえ」


本から少し目を外しただけで、それに対する続きは無かった。


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