第3章 一人目 案内人ルカ
そうして何日か、ゆったりと時が過ぎていった。
本来の目的の事は気になるけれど、私はまずはここの生活に慣れる事にしたのだった。
水汲みやお風呂を用意するなどといった簡単な作業の他に、食卓を整えたり冷たい飲み物を淹れられるようになった。
ちなみに火は使ったらダメだと言われている。
「私、子供じゃないです」
「そういう事に関しては子供だよ。だってリラちゃんはここに来て間もない、猫の年齢のままでしょ」
ここで火を使えないと温かい飲み物も簡単なお料理も出来ない。
私ももう少し色々役に立ちたいです、そう粘るとルカさんはキッチンの棚から一冊の本を抜いて私に手渡してきた。
「なんですか?これ」
「薬草の本。火傷して怪我でもされたらいちいち僕が手当てするの面倒臭いから、まずはこれで治療法を覚えて」
「もう、なんで火傷する前提なんですか」
「もちろんそれもあるけど」
割と真面目な表情でルカさんは続ける。
先ほど何枚かお皿を割ってしまったからか。
昨晩飲み物をこぼしてそれに滑ってコケて、おでこにたんこぶを作ってしまったからなのか。
それとも昨日の朝。
「きみがそそっかしいのは充分分かったし、とにかく文字の勉強にもなるし。ここでは薬草や毒草の知識は役に立つ。見ておくといい」
そんな風にカラフルな植物の絵が入った図鑑の冊子を貸してもらった。
そういえば。
ルカさんのお家ではいつも美味しいご飯が食べれるけど、こちらの世界では物々交換。
……そしたらでも、少々困ることになる。
ここを出たら私、お腹が空いて死んでしまうかも。
ここの人たちはあまり病気もなく寿命で死ぬ事はないらしいけど、事故や空腹の類いでは普通に弱って亡くなってしまうらしい。
そして私も例外でなく。
そもそも虫とかネズミとかも私、取ったことないのよね。
生魚も食べた事ないし。
そう顎に手を当ててうんうん悩みつつ、手渡された本のページをめくり始める私をルカさんは黙って眺めていた。