第3章 一人目 案内人ルカ
上機嫌でそれを頬張っていると、私の顔をルカさんが覗き込んでこちらを見ながら自分の頬を指さした。
「リラちゃん付いてる」
え? パンかな? は、恥ずかしい。
「も少し右」
「右……」
「それ左」
業を煮やしたのかルカさんがくすくす笑い身を寄せてきて私の頬をぺろ、と舐めた。
「…………」
「ホントかわいいねえ」
私は頬に手を当てたまま、憮然として横を向いた。
ルカさんはよく私を可愛いって言う。
それは嬉しいのだけど、なんだか小さい子供や動物(だから元は猫だけども)に対しての『可愛い』のような気がしてならない。
私だってもう三歳を超えて立派に大人の猫なのに。
「ルカさんはお料理はここで覚えたんですか?」
「もちろんそうだよ。でも、その辺りは手先の器用なサル族とかが一番得意かな。 家持ちの中には、食堂みたいな店を出してるのもいる」
「皆さん仲が良いんですね」
「それ程でも無いけどね。 多少は種族にもよるけど、基本的にあんまり僕らは干渉し合わないかな。 いい意味でも悪い意味でも。ただ利害が一致するってだけ」
そんな風に話していると、少し離れた所にある湖岸に人影が見えた。
大きな男の人のようだ。 身を屈めて忙しなく何かの作業をしている。好奇心が勝ってそこに向かおうとすると、一人で行くと危ないよ、と呼び止められてルカさんも後ろからついてきた。
「やあ、兄さん。 マスは要るかい?」
額の汗を拭いながらその人が私たちに声を掛けてきた。
ルカさんより背が高く、横幅もあってがっしりとしている。
茶色の髪の上には顔の大きさの割に小さな丸い耳があった。 人懐っこそうなとび色の丸い瞳。
私はルカさんにこっそりと耳打ちした。
『クマの人ですね?』
『当たり』
こんもりと積まれた魚は銀色のうろこがまだ濡れていかにも新鮮そうで、彼がそれを一匹ずつ縄に繋いでいた。