第3章 一人目 案内人ルカ
「私、この世界で家を訪ねろって言われました」
「家を持つ者たちは僕みたいに、元の世界に何らかの想いを持ってるのが殆どなんだよ。 そしてそれは大きい程、長く居ればいる程大きな家になる」
「私がルカさんの家に行ったのは偶然なんでしょうか? 人の世界からこっちへ来て気付いたら私、ルカさんのお家の前に居たんです」
「うーん、それはちょっと分からないな。 今まで僕の家に来た子にも共通点があった訳じゃないから、多分、偶然だと思うけど」
家なのにまるで生き物みたい。
そして次のお家はどうやって見つけるのかな?
私の考えていることが理解るかのように、ルカさんが続けて言った。
「考えても仕方ないんじゃない? 人との関わりみたいに、何となく呼び合うものらしいって聞いた事もある。家は彼らの想いそのものだから」
ルカさんが先立ち、私たちは薄緑の葉の柔らかな木が生い茂る、明るい林を抜けて歩く。気温も上がり少しだけ汗ばんできた。
低い丘を登って間もなく、眼前に大きな湖が広がるほとりに到着した。
わあ、綺麗です!つい大きな声を上げた。きらきらと陽の光に反射する穏やかな湖面には水鳥が泳いでいる。
人の世界での自然といってもいくらかは綺麗に整備されていた印象だったけれど、草木や木々が遠慮なしに生えているその様子は手つかずの美しさがあった。
「ここで休憩にしよう」
見上げるとすっかり日が昇っていて、私は彼の手からスライスしたパンに野菜や薄い肉を挟んだサンドイッチを受け取った。
ルカさん曰く、たまにキツネなんかのヒト型からああいう水鳥を貰えることがあるらしい。それを炙って食べると美味しいのだそうだ。便利な話だがここの世界には、ヒト型の動物と普通の動物が居るという。
「うーんん、美味しい」
「たくさんあるから。リラちゃんは出てる所は出てるんだけど、もう少し太ってもいいね」
そんな事を言われて昨日のお風呂を思い出し、お尻がむずがゆいというかどこか居心地が悪くなった。
「じゃないと体力つかないよ。また旅に出るんでしょ?」
「そ、そうなんですけど」
火照った顔を誤魔化すようにサンドイッチをもう一口齧る。
私はここのパンがすっかり気に入ってしまった。ピリッとしたマスタードと中のお肉との相性も絶妙で、シャリシャリしたお野菜の歯応えも楽しい。