第3章 一人目 案内人ルカ
「せっかくだから景色の綺麗な所でランチでも食べよう」
ルカさんはそう言い、私の背中に手を当て外へ促した。
目の前には来た時と同じ、のんびりとした風景が広がっている。朝の淡い光は柔らかく、暑くも寒くもない。道端には小さな花がぽつぽつ咲き、少し離れた所には木々が生い茂っている場所も見える。
「ルカ、やあ。 出掛けるのかい?」
「うん、近くまでね」
土を踏みしめて出来ている、狭い道を歩いている途中に一人の男性とすれ違った。
ご近所さんかな? 私より背の低い小柄な人で、真っ黒なくりくりとした瞳をしている。
「連れがいるなんて珍しいね」
「はじめまして、こんにちは」
私の方をちらっと見てきたので少し緊張しつつもぺこりと頭を下げた。
「僕の可愛い人だよ」
ルカさんのそんな冗談のせいで私の頬がぽっと火を灯されたみたいに熱くなる。
「ふうん……家持ちがねえ」
その人は意味ありげにルカさんと私を交互に見つつ、こちらに向かって握ったこぶしを向けて何かを差し出してきた。
「お嬢さん、持って行くといい。ルカ、また酒が出来たら教えてくれ」
「ああ。じゃあ、また」
こちらの世界では基本的に必要なものは物々交換が主らしいと、これは家にいた時にルカさんから聞いた。男の人と別れて手を広げてみると、丸く、元の世界よりも小さな胡桃の実がふたつ。
「彼はリスのヒト型。僕は彼から木の実や果物なんかを貰ってる。ちなみにそれは単なるリラちゃんへのプレゼントだからね」
「そうなんですか。なんだか可愛らしい人ですね」
振り返ると、遠ざかっていく彼の後ろ姿には大きな尻尾がふっさふっさと左右に揺れて動いているのが見えた。
「『家持ち』って何ですか?」
また新しい言葉が出てきたので、今度は先ほどの彼が言った意味を訊いた。
「大概のここの世界に居る者はね。間もなく生まれ変わって元の世界に戻るから、普通は一定の住処を持たない。でも、長くここに居ると住む家が出来るんだ」
『彼等の家のあるところ』
私はキマリ様の言葉をもう一度思い出した。