第3章 一人目 案内人ルカ
「おはよう、早いね」
そんな何でもない朝の挨拶にほっとする。
今朝のルカさんは既に昨日と違う衣服に着替えて台所に立っていた。
私は自分の両頬をぺちぺちと軽く叩きながら気合を入れた。
「おはようございます。ルカさん」
彼の家から少し離れた小川に水を汲みに行く。これはこのまま洗い物などに使うという。滞在中は何もしなくていいよ、そうルカさんは笑ってくれたけれど、それでは居心地が悪かった。
せめて朝起きてきたルカさんに、昨日の彼みたいに飲み物でも用意しておいてあげれればいいのだけど。
悲しいかな新人のヒト型である私はまだ何も分からない。
今の段階で辛うじて出来るお手伝いを終え、サラダと卵の朝食をいただいた。
食後にリビングの端にあるゆらゆらと前後に揺れる大きな椅子に腰かけながら、ここの世界のことについてまた思いを巡らす。
『繋がる』こと。正直まだよく分からない。
あと、もう一つ。これもキルス様の言っていた、『視る』って、一体なんだろう?
うーん、と考えているといきなり椅子が私ごと大きく後ろに倒れそうになった。
「ひゃ!!」
「眉間にシワが寄ってる」
背もたれに腕を置いたルカさんが自分の目の間に指をさしてこちらを覗き込んでいた。少し外でも行ってみない、と誘ってくる。
「気分転換に、どう?」
お誘いに乗り頷いて立ち上がった私を彼は少しの間眺め、ちょっと待ってと奥の部屋から、白く滑らかな手触りの衣服を持って私に差し出してきた。
彼はどうやら昨日から着ている、私のレベル1旅人の服が気に入らないらしい。
「そんなに良い物でもないけど、似合うと思うよ」
薄手のそれはゆったりとしていて、私の身体に沿って滑らかなドレープを描き、すとんと膝の下まで流れるように肌を包んだ。すべすべとした感触が心地良い。
「うーん、やっぱりかわいい」
ルカさんは私と距離を近付いては遠ざかり、大げさに眺めては褒めて。しばらく得意気な表情で頷いていたが、何かを思いついたのかフード付きの薄いコートですっぽりと私を覆った。雨も降ってないのに?
「リラちゃんはスタイルが良すぎてそれだけで出歩くのは危ないからね」
彼曰く、猫族は元々そんな感じのヒト型が多いらしい。 自分のことは分からないけれど、確かにルカさんはとても均整のとれた体型だ。