第3章 一人目 案内人ルカ
そうして私は勧め通り、ルカさんの家にしばらくお世話になる事にした。
『もう少し、ここの世界の仕組みを知ってからでも遅くない』
その夜は時間について教えてくれた。
こちらの時間の流れは実際の人の世界には影響しないと、ルカさんは言った。
つまり、私はここに居る期間に関わらず目的を達成したらキマリ様も言った通り『あの瞬間』に戻れる事になる。
そしてキルス様の言っていた『想い』について。
こちらでは『想い』が解放されれば転生、つまりまた元の人の世界に生まれ変わることが出来ると考えられていると。
そんな事を、まるで教科書を読んできたような調子でルカさんが淡々と私に話す。
教えるというだけに彼は色々なことを知っているようで、その理由を聞くと少し曖昧な様子で割と長くここに居るから、とだけ答えた。
そうやって話をしている内に夜も更けてルカさんはそろそろ休もう、と寝間着とタオルを私に手渡した。
「明日またゆっくりと話をしよう。初日で疲れてる筈だからね。おやすみ、いい夢を」
彼はこじんまりとした、でも天井が高くて寛げそうな寝室を私に提供してくれた。
壁にはめられた小さめの窓の外に浮かんでいる月を見上げながら、この景色も人間の世界と同じなのだと思う。
ルカさんが貸してくれた、木綿のような肌触りの寝間着のシャツ。
顔を寄せるとそれは昼間に、手を彼の胸に当てた時に嗅いだ、ルカさんの匂いがした。
不思議な香りだと思った。
草原の下草のような、一方熟れた果実が少し混ざったような。
おやすみなさい、そう声に出しふかふかのベッドのシーツの隙間に潜り込む。
初めての一人きりの夜だった。
「おやすみなさい……成弥」
もう一度呟いてからそっと目を閉じた。