第3章 一人目 案内人ルカ
「マッサージすると体がほぐれない? で、ついでに味見。 きみがごくフツーの女性だって分かって良かった」
ルカさんがしらっとした風情で濡れた自分の髪を括り直している。
あ、味見? 何か言おうと口を開きかけると、彼はお湯から出ている私の肩を温めるようにそれを包み、緩く腕を回してきた。
「風邪ひくよ」
「……あの、私を食べるわけじゃないんですか?」
もう一度、念を押して訊く。
ルカさんは浴槽のふちに片肘をついて軽く笑い手のひらを左右に振る。
「ごめん、冗談。ヒト型の動物食べるとか、ないない」
「えっ!?」
「そんなの病気にでもなりそうでおっかないでしょ。リラちゃんがあんまり本気にするから、ついね」
何か色々思い出しているらしく、口に手を当てふふっと肩を揺らしている。
ひ、酷い、今までどんなに怖かったと思って。
溜まっていた怖さからじわっと目に涙を貯めてしまった私にルカさんは少し慌てた様子でごめんごめんと繰り返す。私の肩を抱いてた腕を狭めて、なだめるように引き寄せた。
「リラちゃん、暫くここに泊っておいで」
「え…?」
「僕がきみの期待に添えるかは分からないけど、もう少し、ここの世界の仕組みを知ってからでも遅くない。お詫びに色々教えるから、ね?」
取り敢えず食べられないようだし、少しばかり、いや大分悪ふざけが過ぎて変わった人だけれど私はルカさんを嫌いという訳ではない。
そしてここの世界の仕組み。
彼の言うとおり、確かにこの世界にも、私自身にもまだまだ不慣れな事が多すぎる。
「…はい……」
とはいえ、まだ先ほどのやり取りや怒りから。
感情の波の余韻冷めやらぬ混乱気味の私に、ルカさんは決まり、と言わんばかりに整った顔を崩さず微笑んだ。