第3章 一人目 案内人ルカ
恐るおそるすりガラスを引き濡れた床に裸足の足を乗せる。
ルカさんという人に、どうか食べられませんように。先ほどから必死にキルス様や他の神さまにお願いしながら。
お風呂場を見渡すと、周りの壁には明るく透明な石がはめ込まれていた。成弥のところよりずっと広い。
以前元の世界にいた頃のお風呂を思い出す。体の毛が水に触れるだけで不快感があった。
「嫌かな? お風呂」
今の私の心中と場違いにのんびりとした声に目を上げると既にルカさんが湯船に浸かっている。
「大丈夫みたい、です……けど」
いや、というよりもそもそも、ご飯を食べてお風呂に入ったりと私は今、こんな事をしている場合なのだろうか。
自問自答しつつ所在なく観察を続けていると、乳白色のお湯の張られたそこからは仄かな香りの湯気が立ち、ルカさんは半分目を閉じて寛いでいる様子。
そしてこれも食事の時と同様、私に猫の時のような嫌悪感はなかった。
「そう。それにしても」
「………?」
「いい眺めだねえ」
湯気の向こうのルカさんが小さなタオルを当てただけの私を眺めていた。穏やかな表情のそれはどちらかというと、景色か何かを見ているよう。
「狼辺りのヤツらにこれ見せたら、リラちゃん壊れちゃうだろうね」
「…………」
私はなんだかいたたまれない気分になって、肌が露出している自分の体をもう片方の手で隠す。正直こんな手のひらなんかじゃ、全く足りていない。
人間が服を着る理由がよく分かった気がする。
ついでにいうと、湯船から上がってきたルカさんの事もまともに見れない。 人の形の、男性の体はお風呂上がりの成弥のなんかでむしろ今の自分よりも慣れている筈なのだけれど。
必死に体を小さくして顔を背けている私の反応がおかしいのか、クスクスと軽く笑いながら彼がやんわりとそんな私の腕を解くと、シャワーや蛇口などがついた洗い場にある低い椅子へと促した。
「ここに座って。洗ってあげる」