第3章 一人目 案内人ルカ
言われるままに示された椅子に腰を掛けると私の横でルカさんが固形の塊を両手で擦りあわせた。水分を含ませて泡が立つほどにハーブの爽やかな香りが鼻をくすぐる。
これはこっちで使われてるソープ、動物の嗅覚にも負担が無いように、キツい香料は使ってないんだよ。などと私に説明しつつ、そうやって出来たふわふわの泡を私の背中に乗せ始めた。
嗅覚。普通の人間よりは鋭いのかもしれないけれど、今は猫の時より少しだけ落ちているような気がする。
ルカさんに伝えてみるとそうだね、と相槌が返ってきた。
「僕たち……ヒト型は嗅覚だけじゃなくて感覚的にいうと、元の動物とのハーフに近いような感じかな。高い木の上から飛び降りたりはもう出来ないだろうから、気を付けてね」
鼻に抜ける香りと共に、肌に彼の手のひらが直接当たる感触に一瞬驚いた。が、慣れると気持ちが良い。
私は基本的に撫でられるのがとても好きだ。猫の姿だったらこういう時ゴロゴロと喉を鳴らすのだろうか。
ルカさんの手は背の高さに比例して大きいのだけれど、指も長くとても器用な印象。私の長い髪を頭の上でまとめてくれたあとに背中、首筋、腕。
丁寧にソープを伸ばしていった。
でも…………
やっぱり何だか、いつもと違うような。
気分がざわざわするというか、身体がぞくぞくするというか。やはり体に毛が無いせいだろうか。まるでヤドカリか何かが、自分の貝殻でも失くしたように心許ない。
「あ……っ?」
不意に後ろから回されたルカさんの手が、鎖骨から滑って胸まで触れて体が強ばった。
「どうかした?」
「あ、い、いえ……」
「もっとリラックスして。怖くないから」
そ、そんなこと言われても。
ルカさんが私の耳元で小さく声を掛けてから、私自身でもまだ違和感ありありの両方の胸を洗い始めた。
大きな手で包み込んでから、それがゆっくりと弧を描く。
この形状では仕様がないんだろうけれど……
いびつに歪んだその辺りのお肉が、ルカさんの指の間から零れては隠れた。
そこから先端の色の違う部分が形を変えながらちらちらと覗き、自分の体なのに無性に恥ずかしい。