第3章 一人目 案内人ルカ
お風呂? え、なんでいきなりお風呂?
聞き間違いかとも思い思わずぽかんと口を開けてしまっている私を見て、ルカさんが不思議そうに口を開く。
「どうしたの? リラちゃん。見たところ、充分成熟した女性に見えるけど」
会話の意味はよく分からずとも成熟した女性、その単語だけ拾うとこれのせいだろうか。
これも理由は分からない。私はゲームでいう冒険者レベル1旅人の服のようなものを着ていて、それは硬い生地で編まれており、やたら窮屈でしかも胸元には深い谷間が覗いている。
ルカさんは顎に手を当てうーん、と考えていたけれど、やがて思い当たったように私を見た。
「もしかして、そういう類いの事、まだ?」
「そういう類い?」
「向こうで、決まった雄とかいなかった?」
それの意味する所を理解し、顔が熱くなる。多分伴侶、パートナー、恋人とか、そういう話だ。
「……はい。 私は、向こうの世界では発情期が無くて」
だからそれ以前の問題なので。小さな声で答える。ルカさんが俯いてしまった私におそらく視線を向けたまま沈黙していた。
「……これはまた、珍しいお客さんだね。大体僕の所に来る子って……」
「?」
「なにかきみには深い事情がありそうだ」
『僕の所に来る子って』? 暗に最初の言葉を切った彼に、私は同様に曖昧な相槌を返した。
「はあ、まあ……」
深い事情。そんなものはあるにはあるけど初めて会った彼にどこからどこまで話せば良いのだろう。
「それなら尚更、おいで。大丈夫。怖くないから」
ウソだ。
さっき、思いっ切り楽しむって言った癖に。 私はきっとお風呂で綺麗にされた後、食べられるんだ。
そう考えると、どうしても震えてくる。やっと目だけを上げると、ルカさんが私に向けて手を伸ばしていた。
「わ、私、美味しくないです、よ?」
「まずは味見してみないと」
「……………」
でも私は、今はこうするより他にない。
そうして逃げずに彼の手を取ったのは、単に私が馬鹿だからか、ルカさんが先ほどより優しい表情をしていたからか。
………それに縋らざるを得ないほど、一人きりのこの新しい世界が私には不安だったのかも知れない。