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小さな愛【R18】

第2章 リラの旅じたく



「…はっ……はあ…はぁ、」


息を切らしながら自分の胸を掴んでいた。まだ、心臓がドキドキしている。

ごつごつした岩場に、私は立っていた。
どうやら着地をする前のあの瞬間に、ここに無理矢理連れてこられたようだ。
目まぐるしくて頭がついてこない。

あれからどうなったんだろう? ここはどこだろう?
何より、成弥は無事なの?

私には二本の足がある。今私は人間の姿になっているようだった。

もうひと息を深く深呼吸をして、どんよりとした灰褐色の空を見上げた。


キルス様……?

気持ちが少し落ち着いてきた私は途方に暮れて、辺りを見回し目を凝らす。
暗くて寂しい場所。光の無い、どこまでも続く、荒涼とした景色。
静かなこの世界で聴こえるのは乾いた葉ずれの音と、遠くからの掠れた鳥の声だろうか。

あともう一つ。注意深く耳を澄ませてみる。これは僅かな衣擦れの音……? 薄暗いその方向には岩場の隙間、背の曲がった、一人の老人が立っていた。


「……あ、あの、すみません!」


私は赤褐色の土を踏みしめながら膝までの大きな岩の間をすり抜けて、その老人に近寄り話し掛けた。
こちらに顔を向けるその人は、シワだらけの顔をしていて、男性なのか女性なのかは分からない。
濃い色の大きなマントの様なものを頭から被っていた。


「お前。リラ、といったね」


しゃがれて低い女の人の声だった。
私の名前を知っている。


「は、はい。 あの、貴女は……」

「私はこちらと人の世界の狭間に住み繋ぐ者。 キマリという」

こちら。それはもしかして、キルス様の言っていた動物の天国の世界だろうか。
彼女の落ち窪んでいるその瞳はよくは見えないが、眼窩からは小さな赤い光が漏れている。


「貴女はキルス様のお友だちですか?」

「アレは兄じゃ」

「…………」
「…………」


私たちは向かい合ってしばらく無言になった。
ツッコむところだろうか。 よく分からなくて困ってしまった。


「お前のことはキルスから聞いていたよ。 おや? でも、お前、魂の色が随分薄いね」

「は……」


手短だったが、私の身の周りに起こった今までの出来事や、現在の状況をキマリ様に話した。
キマリ様はどうやらキルス様のように私の考えを読んだりはしないらしい。彼女はその間黙ってじっと耳を傾け、話に聞き入っている。


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