第2章 リラの旅じたく
「あの、成弥は、無事なんでしょうか?」
「まあ待て。……ふむ、話はわかった。おそらくだが、確かにお前がキルスの手伝いをして人間になれればその男を庇って助けられるのだろう」
「ほ、本当ですか?」
どうやら成弥はまだ大丈夫らしい。
「ああ、でも、お前は男を助けられても人間の姿を維持できない。そこまでの力がお前にはもう無い。お前は人の世界に戻ったら猫の姿に還って生を終えるだろう。人の形を取れるのは、あくまでこちら世界とお前自身の生命力の賜物だからね」
私は黙った。おそらく私の病気のせいだろう。
それに……なんだか話がややこしいようだ。
頭の中でそれらを整理してみる。
つまり私はキルス様の言うとおり、動物の世界で頑張ったら、少しだけ人間になって成弥を助けられる。
そしたら彼は死なずに済む。
「ついでにだが、人間になることやその男を助けることを諦めて元の世界に戻ることも出来る」
「でも、そしたら」
「男は助からないだろうね。そしてお前も本来の寿命で間もなく死ぬね」
それも無いな。
あんな辛い目にあった成弥が、挙句死ぬなんて絶対割に合わないもの。 なけなしの、私の命の代わりに彼が助かるのならそうしたい。
ついでにあの親方って男。私が死んだら呪ってやる。毎晩枕元に大嫌いなミカンを置いてやる。
キマリ様に返事をしようと顔を上げると、その前に私の目の前に手を上げてそれを制された。
「言わなくて良い。分かるからな」
……さすがキルス様の妹さん。
キマリ様は上げていた手の指を、私の目の前でゆっくりと開いた。
「五人だ」
「え?」
「良いか。 対価として五人と『繋ぐ』のだ。 キルスから聞いていようが、中には凶暴なのも居るから充分用心しろ。彼等の居場所はすぐに分かるだろう。『彼等の家のあるところ』だ」
「は……い」
私はきゅっと口許を引きしめた。
絶対頑張る。私は成弥を助ける。
キマリ様はシワだらけの目を細め、にっこりと笑って私の頭を撫でた。
この撫でる感触もキルス様と……
『リラ、幸運を』
やっぱり似てるなあ、と言いかけて、そのあと私は亡くなった動物たちが住むという世界に旅立った。