第2章 リラの旅じたく
つまり、成弥は今まで少ないお給料で働かされていたってことだろうか。成弥が親方さんのことを信頼して、これまで私は悪口一つ聞いたことがなかった。
成弥が子供だったから? だから彼をだましていいように使ったの?
私の身体の毛が怒りで逆立った。
「俺はお前に住む所の世話もしてやっただろう。この話は終わりだ。まだ不満があるなら、荷物をまとめてあのアパートからさっさと出ていけ!」
「そんな、親方。 話が違うじゃないですか!」
成弥が咄嗟に親方さんの肩に手をかけて、引き留めにかかった。
感情がついてきていないのか、成弥は怒っているわけではなくただ納得がいっていない様子だった。
きちんとした説明を求める成弥に対し、心底迷惑そうな表情でそれを振り払う。
「うるさい、離せ」
「親方!」
昔と違い体が大きくなった成弥は親方さんとそう背丈も変わらない。それどころか並ぶと冷静な成弥の方が不思議と威圧感があった。そのせいか、私からはどちらかと言えば親方さんの方が焦っているように見えた。今一度食い下がる成弥に、親方さんが彼の胸を強く押した。
突き飛ばされた反動で、成弥の背中が固い壁に打ち付けられる。
その瞬間に、私は彼の許に走り出していた。
壁のロッカーの上の両側。空いたそれらを支えるように建てかけてあった板、そこに無造作に上に載っている鉄材や工具などの重そうな物が、まだ体勢を整えていない成弥に向かって、バラバラと降り掛かろうとしていた。
「っ成弥、危ない!!」
地面を思い切り蹴り、彼の頭の上に覆い被さろうとした。
私が発した猫の鳴き声で成弥がこちらを振り向く。
「リラ!?」
「成弥!!」
そして大声で私の名前を呼び、直後その状況に思いがけずといったような親方さんの声がそれに被った。
私に驚いている成弥は、まさに頭上から彼を襲おうとしている機材に気付いてない。
成弥!!!!!
でも、ダメだ。
こんな小さな体じゃきっと彼を庇えない。
私の体がもっと大きければ!!
『そうしたいと思ったら強く願えばいい』
記憶の中の声が頭に閃いた。
私が人間だったら!!!!
そう強く思った瞬間、視界が。いや、私自身がだろうか。
眩い白い光のようなもので跳ねた。