第2章 リラの旅じたく
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「あたし、ここ通るといつも、ゾクッとするのよね」
「近所じゃ『忌み地』って有名だよ。 何でも昔、戦争があった時から人間のせいで殺された動物たちが埋められてるんだって、うちの婆ちゃんが言ってた」
やだ怖い、早く通り過ぎよ。そんな若い人間の二人連れの声を聞きつつ、私はその場所の周辺を歩き回った。
所狭しと建つビルの隙間に、不自然に存在する空き地。
低い石段の上に、古くて崩れかけたお地蔵様がひっそりと祀られている。
先ほどの彼らが言っていたような、嫌な感じはしない。
特にこの辺り、森とお日様の様な匂いがする。
そのお地蔵様の前に座って、私はじっとキルス様を待った。
「……リラ、久しぶり。 少し痩せたかな」
程なく色んな重さや色の空気が集まり、以前と同じように、少年の風情の彼がそこに現れた。
石段に腰かけているキルス様は、鮮やかな朱色の瞳で私を見詰め、子供の小さな指先で私の耳のふちを優しく摘んだ。
「キルス様、私……」
打ち明け始めようとした私の言葉を遮るように、彼がその細い首をゆっくりと左右に振る。
「残念だけど、それは出来ないよ。生き物の生死には関与してはいけないことになっているし、それは人間になっても同じこと。 事故とかそういうのなら、また違うかも知れないけど。 成弥がどうするかは分からない……でもキミは最期まで、彼の傍に居てあげるといい」
まつ毛を伏せたキルス様は、ぱっと耳にした印象では感情の無いような声で私に語り掛ける。だけどよく聞くと、そこにはどこか寂しさが滲んでいるのが分かった。
「ごめんね。キミ達の力になってあげたかった」
目を上げて、私も微かに首を横に振る。キルス様は少年のような容姿をしているけれど、表情は成熟した人間のそれだった。
出来ることと出来ないこと。
私は自分の勝手な都合で、キルス様を悲しませたようだ。