第2章 リラの旅じたく
病院に到着して長い検査が終わり、すっかり疲れた私は診察台の上で丸くなっていた。
いつもより大きくて痛い注射をされたからというのもある。
須賀さん、と名前を呼ばれ私のいる診察室に入ってきた成弥。眼鏡をかけたお医者さんが抑揚の無い声で彼に告げた。
「リラちゃん、癌に罹ってますね」
その病院の帰り道、成弥の足取りは重かった。
キャリーバッグの中から透明のビニール越しに覗いていると成弥は立ち止まり、私は一瞬、彼が歩き方を忘れたのかと思った。そして歩道の脇に向かったあとにそのまましゃがみ込むと、とうとう動かなくなった。
黒髪の隙間から途方に暮れたような成弥の表情が見えた。
私と目が合うと、なにか痛みを感じた時みたいに眉根を寄せる。俯く成弥を見上げながら、私は先ほどのお医者さんと成哉のやり取りを思い出していた。
乳癌のようです…
しこりがあったので…
ここの細胞の形が崩れているのが見えますか…
悪性の確率は非常に高く…
まだ若いですから手術も…
予後としては現状は残念ですが…
費用は…
それでも最終的な判断は…
私は死ぬのかな。
成弥は悲しむだろう。
そして私はそれがとても悲しい。