第2章 リラの旅じたく
鏡で見てごらん。
次にそう言われて、私はそろそろと玄関先に立てかけてある、大き目の鏡を覗き込んだ。
人間に変わった私はなんというか……
語弊はあるけれど、ある意味猫のまんまだった。
歳の頃は成弥と同じ位の女の子。象牙色の肌にお尻までの薄茶の髪。ちなみに猫の私の毛色は白地に薄茶。髪の色やなにかは元の姿のそれによるのかな。
でも、胸がやたら重いしお尻の辺りにも余計な脂肪が付きすぎて。
牙も爪も小さく殆ど目立たなくて、心許無い。お尻に手をやると元のような、ピコンと長い尻尾。そして猫の耳もちゃんとあるようで、それにはほっとした。
だけど、私、成弥みたいに綺麗な黒い髪になりたかったな。
私が黒猫だったら、そうなってたのかな。
もしもアイツと同じなら、成弥は私を直ぐにお嫁さんにしてくれるのかな。
「一瞬だし、それはヒト型の姿だから完全な形ではないけど」
キルス様が申し訳無さそうに言い、それはそのとおりで、間もなく私は元の小さな猫の姿へと萎むように戻った。
「よく考えてみるといいよ。そしてそうしたいと思ったら、強く願えばいい」
キルス様はひょい、と私を抱き上げると柔らかなほっぺたで私に軽く頬擦りをした。髪の隙間からは豊かでいて清涼な、森のような匂いがした。
「じゃあね、リラ。幸運を」
そっと床に降ろされて、その言葉が終わるか終わらないうちに、がらんとした部屋の中に再び私だけになる。
微かに残る日なたの匂いに目を向けると開けっ放しになった窓からは、今はふうわりとただの風が漂っているだけだった。